チャプター 7
「メイソン・マルティネス様、いったいここで何をなさっているんですか?」顔面を蒼白にして、メイドが声を張り上げた。
(メイソン・マルティネス?)
アメリアは胸の内で復唱する。メイソンなら覚えている。マルティネス家の三番目の子で、彼女の弟だ。
しかも彼は名の知れたモデルでもあった。大きなファッションショーには常連で、何を纏っても一気に高級感が立ち上がるような空気をまとっている。歩く彫像――まさにそんな男だ。ほんの数日前も、美しい配信者に大金をつぎ込み、一度の生配信で何十万ドルも投げたと話題になっていたのを目にしたばかりだった。
メイソンの目元はアメリアに似ていて、同じように切れ長だ。ただ、燃えるような赤い巻き毛のせいで、どこか反抗的な匂いが混じって見える。
メイソンは言った。「いるに決まってるだろ。こんな面白い場面、見逃せるか? マルティネス家はお前らを甘やかしすぎたみたいだな。執事のところへ行って退職金をもらって、さっさと出ていけ」
その声は氷のように冷たかった。言い終えると、彼はアメリアへ向き直る。
「母さんがお前を呼んでる。ついてこい」
気だるげに片手をポケットへ滑り込ませ、長い歩幅で前へ進む。ときおり振り返っては、アメリアをちらりと見た。
リビングはまだ混乱のままだった。
昨夜は遅い時間だったうえ、メイベルを起こさないようにと、チェイスがメイドたちに「片づけは今日に回せ」とわざわざ言いつけていたのだ。
メイソンが言う。「なんだよこれ。こんなに散らかして。これはお前の物か?」
階段のそばに、いくつかの物が散らばっている。今朝、アメリアがわざと部屋から持ち出しておいたものだった。
部屋に余計な物がごちゃごちゃしているのが好きではない。だから外へ出した、それだけだ。
メイソンは続ける。「別に、お前が何もできないって言ってるわけじゃない。けど、甘やかされたお姫さまの真似は上手いよな。家の中をひっくり返して、物を放り投げてさ。お前には『悪魔』って呼び名が一番似合う」
アメリアは顔を上げた。メイソンは彼女より頭二つぶんは高い。その見上げる視線のまま、ゆっくり問いかける。
「『長女は母も同然』って言葉、知ってる?」
「ああ、知ってる」反射的にうなずいた直後、彼の眉がつり上がった。「で、何が言いたい? 母さんはそこにいるだろ」
アメリアは答える。「ただ言っておくの。何があっても、私はあなたの姉よ。だから助言を一つ。いい? 姉の用事は――」
彼女は自分を指し、唇の端に薄い笑みをのせた。「姉の用事は、あなたの関知するところじゃない。私が何をしようと、あなたが口を出す筋合いはない。分かった?」
アメリアという女は、なかなかどうして侮れない。
メイソンは顎に手をやり、内心で考える。さっき庭で感じた違和感が、今はますます確信に変わっていた。姉は口が鋭い。返しがいちいち速い。
ビアンカそっくりだ。
これは、まだまだ見ものが増えそうだ。
「姉さん……」彼は言葉を引き伸ばし、面白がるような目をした。「安心しろ。お前が捨てたガラクタには俺は手を出さない。でも、別の誰かが手を出すだろうけどな」
メイソンはソファに腰を下ろし、脚を組んだ。まるで観劇の準備でもできたかのような姿勢だ。
アメリアは一瞬きょとんとした。意味が飲み込めないまま、二階から物音がするのを耳にした。
ビアンカは言った。「おばあさま、アメリアと話して。自分のものを捨てるのは勝手だと思う。でも、どうして私の十八歳の誕生日におばあさまがくれたネックレスまで捨てられるの? あれは私にとってすごく大切なの。大好きなのよ。でも、アメリアが本当に欲しいっていうなら……あげる」
メイベルは返した。「あげる? 冗談じゃない。あなたは私のいちばん可愛い孫娘よ。あのネックレスは、私からあなたへの特別な贈り物だ。どうして手放せるの。マルティネス家に戻ってきた途端、このアメリアは騒ぎを起こしてばかりじゃない」
メイベルは怒りで顔色を変えていた。ビアンカが支えていなければ、階段を下りきれなかったかもしれない。
年老いた女と若い娘はゆっくりと階段を下りてきた。口では会話をしているふうを装いながら、実際はアメリアをあてこすっているだけだった。
アメリアはメイソンに目をやり、彼の意図を察した。彼は、この二人が騒ぎ立てることを最初から分かっていたのだ。
メイベルはさらに言い添えた。「いるのよね、心が卑しい人って。田舎から出てきて、目に入るものを何でも自分のものにしたがる。まったく、視野が狭いったらないわ」
メイベルは一段ずつ慎重に下りながら、アメリアの姿が視界に入るたび血圧が上がるのを感じた。「アメリア、ビアンカのネックレスを今すぐ返しなさい。人の物に手を出しちゃいけないって、あなたのおばあさんは教えなかったの? どうやら、あなたを育てた祖母も大した人じゃなかったみたいね」
その言葉には露骨な蔑みが滲んでいた。
アメリアは、誰かがエヴリンの名を口にするのが堪らなく嫌だった。深く息を吸い、エヴリンの言葉を思い出そうとしたが、結局抑えきれなかった。「ビアンカ、こっちに来て。どうしてあなたの物が私の部屋にあったのか、説明して」
メイベルの腕にしがみついたまま、ビアンカは凍りついた。見上げた瞳には、悔しさと戸惑いがいっぱいに浮かんでいる。「分からないわ。今朝、あなたがたくさん物を捨てたって、メイドが言ってたの。ネックレスも含まれてたって。私、昨日ネックレスをなくしたから、それで……」
視線が揺れ、ビアンカはメイソンを指さして言った。「メイソンもそこにいたのよ。私、嘘なんかついてない」
メイソンは組んでいた足をほどき、薄笑いを消した。「捨てたって話は耳にしたけど、何を捨てたかまでは聞いてない。たまたま通りかかっただけだ」
アメリアは歩み寄ると、ビアンカの首元をつかんで頭をぐいと引き下ろし、捨てられた物の山まで引きずっていってから手を放した。
足元がもつれて、ビアンカはよろけ、倒れそうになった。前日にできた首の傷がまた開き、痛みに目尻が滲む。
「アメリア! 何をするの!」メイベルは驚き、取り乱した。
アメリアは言った。「私がネックレスを捨てたって言うんでしょう。じゃあ、見つければいい。全部ここにある。見つからないなら、見つかるまで探せば?」
アメリアは無垢そうにメイベルを見上げた。表情だけは清らかだった。
それから視線を落とし、ビアンカに一つ残らず漁らせた。だが最後まで、ネックレスは出てこなかった。
アメリアは続けた。「私はネックレスなんて捨ててない。あなたの物なんてどうでもいい。いちいち喧嘩を売りに来ないで。あなたはただの成り代わり。偽物は偽物よ。私のことに首を突っ込まないで」
「この……!」メイベルは怒りで声を震わせ、目元が赤くなった。
アメリアは言った。「私と同じ家にいるくらいなら死んだほうがましだって言ったのは、あなたでしょう。どうしてまだ行かないの?」
メイベルは怒りで体を震わせ、足元が頼りなくなり、頭がくらくらして、そのまま崩れ落ちそうになった。
アメリアは反射的にメイベルを支えようと駆け寄った。好きではない。だが、今のところ自分の手で死なせる気もなかった。
けれど、もっと早い者がいた。
髪を団子に結った少女が駆け寄り、メイベルを受け止めて転倒を防いだ。
