第4章

佳奈視点

『一週間歩けなくなるほど、激しく抱いてやる』

私は凍りつき、直樹を見つめた。彼の灰色の瞳は暗く、嵐のように荒れている。ほんの一瞬、狂った考えが頭をよぎった――彼のその脅し文句がハッタリかどうか、試してみようかと。

『待って、なんなの?』

心臓が肋骨を叩くように激しく脈打つ。それは恐怖からではない。純粋で、生々しい欲望からだった。

『嘘でしょ、佳奈。あんた、どうかしてるわよ』

「私……」

言いかけて、すぐに口をつぐんだ。気の利いた言葉なんて何一つ出てきそうになかったから。

「行け」

彼は再び唸るように言った。声はさらに荒くなっていた。

「俺たちが後悔するようなことをしでかす前に」

私は脱兎のごとく逃げ出した。

廊下を全力疾走し、部屋に飛び込んでドアを閉めると、まるで彼が突き破ってくるかのように背中でそれを押さえつけた。床に崩れ落ちると、全身が震えていた。

『一体全体、何が起きたの?』

絨毯の上に座り込み、呼吸を整えようとする。肌が火のように熱い。彼にあそこまで近づいた余韻で、神経のすべてがまだ痺れていた。あの腰に低く巻かれたタオル、胸を伝い落ちる水滴……。

『しっかりして、佳奈。もう』

けれど、彼の言葉が頭の中でリピートして止まらない。あの低い唸り声。私を丸ごと貪り食いたいとでも言うような、あの目つき。

そして最悪なのは? 私がそれを望んでしまったことだ。

『待って。まさか』

私は慌てて立ち上がり、部屋の中を歩き回った。私を辱めた傲慢な嫌な奴への復讐、じゃなかったの? いつから私は、安藤直樹を『求めて』いたの?

鏡に映る私は、頬を紅潮させ、目を丸くし、シルクのナイトガウンが体の曲線に張り付いている。それは復讐を企む女の顔じゃない。完全に理性を奪われた女の顔だった。

『嘘。嘘でしょ、いや、無理』

その事実は、みぞおちにパンチを食らったような衝撃だった。もう遊びなんかじゃない。病院への見舞い、手料理、そして今夜の半裸での対峙……そのどこかの時点で、私はあり得ないほど馬鹿なことをしてしまったのだ。

あのろくでなしに惚れてしまった。私のことなんて半分は空気扱い、残りの半分は厄介者扱いしてくるような男に?

「水島佳奈、あんたって本当に救いようのない大馬鹿者ね」

鏡の中の自分に向かって囁く。

「『彼』を『私』に惚れさせるはずだったんでしょ。逆になってどうすんのよ」

でも、事実は目の前に突きつけられていた。頑固に認めようとしなかった真実。彼が部屋に入ってくるたびに高鳴る鼓動。彼が最低な態度を取っている時でさえ、その一言一句に聞き耳を立ててしまう自分。彼が帰宅するまでの時間を毎日カウントダウンしている自分。

『最悪だ』

ベッドに倒れ込み、天井を見つめる。私の完璧な復讐計画は、どうしてよりにもよってあの「氷の王」に恋心なんて抱く結末になっちゃったわけ?

それに、もっと悪いことに――これからどうすればいいの?


翌朝、重い足取りで階下へ降りると、朝食がすでに用意されていた。淹れたてのコーヒー、黄金色に焼けたカリカリのトースト、私の好みに合わせた半熟の両面焼きの目玉焼き。直樹はテーブルにつき、スマホをスクロールしていた。スクラブ姿が腹立つほど決まっている。

「朝ごはん、作ってくれたの?」

私は本気で驚いて尋ねた。

彼は顔も上げない。

「借りを返しただけだ」

震える手でコーヒーを注ぐ。昨夜の一件があったばかりなのに、この妙に家庭的な雰囲気が気恥ずかしい。沈黙が二人の間に重くのしかかり、言葉にできない緊張感が漂っていた。

私のスマホが震えた。亮一だ。

「やあ、美人さん」

朝の七時にしては、やけに快活な声だ。

「今夜、夕食どう? ダウンタウンに新しいイタリアンの店ができてさ、ずっと行ってみたかったんだ」

直樹をちらりと見る。彼は今、スマホ越しに私を観察していた。その顔は無表情だったが、室温が一気に十度くらい下がったような気がした。

「えっと……」

私は口ごもった。昔の私なら、直樹を嫉妬させるためだけに即答で飛びついただろう。でも昨夜の気づき――この腹の立つ男に、私が本気で惹かれているかもしれないという事実――のせいで、他の男を利用するのはなんだか薄汚いことのように思えた。

それでも、この気まずい沈黙は耐え難く、直樹の視線はレーザービームのように突き刺さってくる。

「いいわよ、亮一。楽しそうね」

『意気地なし』

直樹の口元が歪み、冷笑のような形を作った。

「デートか?」

「そんな感じ」

私は呟いて電話を切った。

「へえ」

彼はスマホを置くと、その灰色の瞳で私を射抜いた。

「もう次のターゲットに移るのか? 早いな」

何気ないその一刺しに、私はびくりとした。

「そんなんじゃないわよ」

「違う? じゃあ何だ、佳奈? 俺の席からは、手玉に取る次の獲物を物色してるようにしか見えないんだがな」

『うっ』

それは効いた。

言い返して自分を守りたかったけれど、言葉が喉に詰まって出てこない。なぜなら、彼の言うことは完全に的外れではないかもしれないからだ。私は今までゲームをして、人を利用してきたのかもしれない。そう思うと、胃がひっくり返るような気分になった。

「直樹」

私はマグカップを置いて、静かに言った。

「謝らなきゃいけないことがあるの」

彼は片方の眉を上げた。

「そりゃ楽しみだ」

「私が今までしてきたこと――病院への見舞いも、料理も、その……」

私は曖昧に手を振った。顔がカッと熱くなる。

「全部よ。復讐だったの」

「何の復讐だ?」

「初めて会った時のことよ。あんた、私のこと『棒きれ』って呼んで、私の家族はあんたの母親の金目当てだって言ったじゃない」

あの記憶は、今でも焼けるように痛い。

「あんたが私を惨めな気分にさせたから、あんたも同じように苦しめてやりたかったの」

彼の顔が曇った。

「それでおめかしをして、俺を誘惑しようとしたのか? それがお前の大層な復讐計画か?」

「お母さんが父さんに話してるのを聞いたの。あんたが身を固めないか心配だとか、父親の遺産が家族じゃなくて金目当ての愛人に渡るかもって。だから私……」

口に出すと、あまりに情けなくて声が尻すぼみになる。

「だから何だ? 俺を夢中にさせられると証明するつもりだったのか? 俺が何を逃したか思い知らせてやろうと?」

彼の声は低く、殺気を帯びていた。

「おいおい、佳奈。それは復讐じゃない――ただの残酷な仕打ちだ」

平手打ちを食らったように、私は顔をしかめた。

「ひどいって分かってるけど――」

「ひどい?」

彼は乾いた笑い声を漏らした。

「俺は……クソッ」

彼は髪を乱暴にかき上げた。

「お前は二十歳だろ。悪口を言われたくらいで駄々をこねる、甘やかされたガキみたいな真似して」

涙が目に滲んだが、私は彼の視線を受け止めた。

「それだけじゃないわ」

「違う? じゃあ何だ? 傷ついたプライドか? どんな男でも自分を欲しがるようにできるって証明したかったのか?」

彼は背もたれに寄りかかり、気に入らないパズルを見るような目で私を見た。

「言ってみろよ、佳奈――こういうのが趣味なのか? 男が壊れるまで一芝居打って、ゲームを楽しむのが」

その口調に含まれた軽蔑の色が、深く突き刺さる。

「そんな……私はそんな女じゃない」

「そうか? 自分の容姿を使って欲しいものを手に入れるタイプに見えるけどな。人を操って、嘘をついて、誰かに指摘されたら被害者ぶる」

『売女』

彼はそう言わなかったけれど、その言葉が空気に残響した気がした。

涙が溢れ落ちたが、彼の氷のような視線から目を逸らすことができなかった。

「こんなことになるなんて思ってなかった。あなたを傷つけるつもりなんて、決してなかったの」

「傷つける?」

彼は立ち上がり、振り返りもせずにマグカップを掴んだ。

「佳奈、お前は俺を傷つけられるほど、重要な存在じゃない。お前はただ……期待外れなだけだ」

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