第3章

山崎絵麻の視点

次の土曜日の朝。わざと九時まで寝坊する。クローゼットの前に立ち、カシミアのセーターは素通りして、一番奥に手を伸ばした。グレーのヨガパンツと、白のアスレチックタンクトップ。スポーツブラは棚に置いたまま。

鏡に映る姿は、薄い生地がすべてをあらわにしていた。脈が速くなる。

あの日のオフィスでの一件で彼があんなに夢中になったのなら、これでどうなるか、見てみたい。

シャワーで濡れた髪もそのままに、裸足で階段を下りる。朝の光が、背の高い窓から溢れんばかりに差し込んでいた。

自宅の書斎からタイピングの音が聞こえる。土曜日なのに仕事をしている。

出入り口で立ち止まる。

拓也はデスクに向かい、ラップトップを開いていた。ダークカラーのヘンリーシャツにジーンズ姿だ。彼が顔を上げたとき、その指がキーボードの上で凍りついた。

『うそっ。マジかよ。なんだその格好は?あのタンクトップ……着けてないのか……絶対にブラジャーを着けてない。見え……見るな!この変態野郎、クソ、見るな!メールだ。メールに集中しろ。四半期予測。だが、彼女の乳首が……ダメだ!やめろ!スクリーンを見ろ。自分のモニターを、クソッ、見ろってんだ!』

「おはよう」ドアフレームに寄りかかる。「もう仕事?」

彼の喉仏が上下する。「ちょっとレポートを片付けてるだけだ」

「コーヒーいる?淹れるけど」

「いや、いい」

「どうせ淹れるから」

十分後、私は二つのマグカップを持って戻った。彼のはブラックに砂糖二杯。私のはオーツミルクのカフェラテだ。

私が部屋に入ると、拓也は窓際に立ち、ポケットに手を入れていた。距離を取ろうとしている。

「はい」彼のカップを置く。「ブラックコーヒー。お砂糖は二つ」

彼はマグカップを見つめる。「俺のコーヒーの好み、覚えてたのか?」

「もちろん覚えてるわ」

私はデスクの向かいにある革張りの椅子に座り、ゆっくりと脚を組む。彼の視線が一瞬下に向き、すぐに私の顔へと跳ね返った。

「最近、仕事ばっかりね。土曜日まで?」

「忙しいだけだ。市場が不安定でな」彼はコーヒーに手を伸ばす。「ありがとう」

私は自分のカップを彼のデスクに置こうと、身を乗り出す。

乗り出しすぎた。

肘が彼のマグカップに当たった。コーヒーがそこら中に飛び散る。書類を濡らし、彼の服にかかる。黒い液体が、グレーの生地に染みを作っていく。

「しまった!」私は飛び起きる。「ご、ごめんなさい!」

拓也は素早く立ち上がる。コーヒーが胸から滴り落ちていた。私は彼のデスクの引き出しからティッシュを掴み、駆け寄る。

「脱いで!コーヒー熱いから、火傷するわ!」

彼が反応する前に、私の両手は彼の胸にあった。濡れた生地の上からティッシュを押し当てる。びしょ濡れのヘンリーシャツ越しに、彼を感じる。がっしりとして、温かい。硬い筋肉。

『触られてる。絵麻の手が、俺の胸に。俺の、クソッ、胸の上にある。これは事故だ。ただの事故だ。なのに、指の一本一本、触れているすべての点が感じられる。彼女の手のひらが押し当てられて……ああ、今、乳首を掠めた。俺の心臓がどれだけ速く脈打っているか、彼女に伝わっているだろうか?心臓発作で死ぬ。しかも、硬くなってる。ダメだダメだダメだ。今じゃない。何か別のことを考えろ。税法!破産手続き!だが彼女は止めない。指が縦横無尽に動き回る。首筋に彼女の息がかかるのがわかる。ココナッツとバニラの香り。俺のすべての妄想と同じだ。彼女は自分が何をしているか分かっているのか?やめろ。最低だ。妻が助けてくれているのに、クソガキみたいに勃起しやがって』

「大丈夫だ」彼の声が上ずる。「自分で……」

「動かないで」私は拭き続ける。手はゆっくりと動かした。彼の呼吸が荒くなっていく。

「シャツ、びしょ濡れよ」私は彼を見上げる。互いの顔が数センチの距離にある。「着替えないと」

「ああ。そうだな……」

だが私はもうシャツの裾に手を伸ばし、生地の下に指を滑り込ませていた。「手伝うわ」

彼の頭上へとシャツを引き上げる。彼は動かない。腕を上げたまま、完全に固まっていた。

彼の胸が、すぐそこにある。輪郭のはっきりした筋肉。白い肌。肋骨の近くに小さな傷跡。

「着替えてくる」彼は私の手から濡れたシャツをひったくり、ドアに向かって後ずさる。「ちょっと……」

私が返事をする間もなく、彼はほとんど駆け出すように部屋を出て階段を駆け上がっていった。

十数えてから、後を追う。

彼の寝室のドアは開いていた。まっすぐバスルームに入ったようだ。水の流れる音が聞こえる。私は中へ入った。

三年。ここに入ったのは初めてだった。

部屋はミニマリストだ。清潔で、キングサイズのベッドにダークカラーのシーツ。すべてが整然と置かれている。

だが、ベッドサイドテーブルの上に写真があった。私はそちらへ歩み寄る。

私だ。

写真の中の私は、桜木公園のベンチで本を読んでいた。春。去年。あの黄色いワンピースを着て、髪が風に吹かれている。

この写真の存在を、私は知らなかった。

心臓が激しく鼓動する。

いつから彼は私を見ていたのだろう?

ベッドサイドテーブルには引き出しがあった。開けるべきじゃない。でも、私はもうそれを引き開けていた。

中には、私のスカーフ。先月なくした、バーガンディ色の。

なくしたんじゃない。盗まれたんだ。

それを手に取る。強い香りがした。彼の香り。心臓の速さが加速する。

バスルームで何かが割れる音がした。

スカーフを握ったまま、ドアへと歩く。フレームに寄りかかった。

「拓也?大丈夫?」

「ああ。何か落としただけだ」

「引き出し、開いてたわよ」

沈黙。

そして、「ああ」とだけ。

『見つけられた。全部見つけられた。スカーフ。ヘアゴム。まさか、ナイトガウンも見たのか?まだ彼女の匂いがする、あのナイトガウンを?もう終わりだ。俺は気味の悪い男だと思われる。出て行くだろう。すぐに離婚を切り出される。警察を呼ばれるかもしれない。説明しなければ。だが、彼女の服を盗んだことをどう説明する?ごめん、君の一部が欲しくてたまらなくて、君のものを取って……ダメだ。狂ってるとしか思われない説明しかない』

「拓也、その引き出しに、一体何を隠してるの?」

私の声は柔らかい。ほとんどからかうような響きだ。

「説明できる」

「できるかしら?」

バスルームのドアが開く。拓也は黒いTシャツに着替えていた。髪はまだ濡れていて、顔は青白い。

私は今、彼のベッドに座っていた。バーガンディ色のスカーフが膝にかかっている。

「これ、私のよね」疑問の形ではなかった。

彼の顎がこわばる。「ああ」

「探してたのよ」

彼は私の目を見ようとしない。「すまない。それが……すべきじゃなかったのは分かってる……」

「拓也、その引き出しに、他に何が入ってるの?」

彼の顔がさらに赤くなる。「大したものじゃない」

「見せて」

「絵麻……」

「見せて」

私は立ち上がり、ベッドサイドテーブルへと歩く。彼は止めなかった。

中には、私の手にあるスカーフ。黒いヘアゴム。そして白いナイトガウン。私のものだ。乾燥機に食べられたと思っていたやつ。

私はナイトガウンを手に取り、持ち上げる。

「これ、取っておいたのね」

「返そうと思ってた」

「嘘つき」

その言葉が、二人の間に宙吊りになった。

私はゆっくりと彼に向かって歩く。彼は壁にぶつかるまで後ずさった。

私はスカーフを彼の手の中に押し込む。それからヘアゴム。ナイトガウンも。

「それが欲しいなら……」私はさらに近づく。彼から発せられる熱を感じるほどの距離まで。「持っていていいわ」

彼の呼吸が止まる。「何?」

「持っていて、拓也」

私は一歩下がり、ドアに向かう。

「絵麻、待ってくれ。説明しないと……」

「必要ないわ」ドアのところで立ち止まり、振り返る。「でも、次に私のものが欲しくなったら?ただ聞いてくれればいいわ」

私は彼をそこに置き去りにした。彼は凍りついたように立ち尽くし、品々を手に握りしめている。

廊下に出て、笑いをこらえるために口を手で覆った。

山崎拓也。金融界の天才。冷血なビジネスマン。

恋に悩む十代みたいに、私のものをベッドサイドテーブルに集めてるなんて。なんて可愛いの。

背後で、彼が壁をずるずると滑り落ちる音が聞こえた。

『一体何が起こったんだ?彼女は今……絵麻は、俺が彼女のものを持ち続けることを許可したのか?いや。皮肉を言っているんだ。俺を馬鹿にしているんだ。だが、彼女の声。俺を見るあの眼差し。「次に欲しくなったら、ただ聞いて」。どういう意味だ?聞く?何を?彼女の服を?彼女の気を引くことを?彼女自身を?この女は俺を殺す気だ。文字通り俺を殺そうとしていて、そして俺は彼女に殺されるつもりだ』

私は自室のドアを閉め、それに寄りかかる。心臓が狂ったように高鳴っていた。

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