第30章

二人で立ち上がって店を出る。ピアノの横を通り過ぎたとき、林原知世は思わず、もう二度ほど視線をやった。

その目線に気づいた宮崎直志が、半拍だけ歩幅を落とす。

「その曲、好き?」

「うん。けっこう好き」

林原知世はふっと笑って、

「なんていうか……言葉にしづらいけど、自由な感じがする」

宮崎直志は小さくうなずいたきり、余計なことは言わなかった。ただ、バーを出ると自然に彼女の外側へ回り込み、路地の入口から吹き込む夜風をさりげなく遮る。

宮崎直志の足代わりの車に乗り込むと、男特有のシダーの香りがふわりと鼻をくすぐった。胸の奥がすっと緩む。

林原知世は横目で、ハンドルを握る彼の手を見た...

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