第63章

林原知世は乱れた袖口を整えながらうつむいていたが、『婚約』という二文字を耳にした瞬間、ぴたりと手を止めた。

顔を上げる。長いまつげがかすかに震え、その瞳の奥を一瞬、戸惑いがよぎった。

宮崎直志と、小原寧音。

あの二人が婚約する?

林原知世はまばたきをひとつし、この前、馬場で見た宮崎直志の小原寧音への態度を思い返した。

小原寧音に一瞥すらくれるのも煩わしそうだった男が、婚約などするだろうか。

額にそっと手をやり、それでもなお自分をきつく睨みつけてくる小原寧音を見て、林原知世は胸の内に浮かんだ呆れと可笑しさを静かに押し込めた。

まあ、そういうことなのだろう。この小原家の令嬢は、幼い...

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