第65章

気がつくと、林原知世は反射的に車体を見回して状態を確認した。

新車の左後ろが、ほんの少し擦れて塗装が欠けている。ドアハンドルもわずかにぐらついていたが、致命的というほどではない。なにより、自分の身体はどこも痛くない。

けれど――左後方に新しく刻まれた薄い傷跡を見つめた瞬間、口元がひくりと引きつった。

新車の塗装は鏡みたいに艶があり、影まで映るほどだった。そこに一本、余計な線が入っただけで、胸の奥がむずむずするくらい惜しい。

乗ってからまだ10分も経っていない。ろくに味わう暇もないうちに、こんな目に遭うなんて。

ついてない。

知世はドアを押し開け、ヒールで路面を踏んで車を降りた。

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