第72章

林原奈々子は聞き取れなかったふりでもするように、ぱちぱちと瞬きをした。瞳の奥に浮かんだ得意げな色が、危うくこぼれそうになる。

林原知世が、こんなにもあっさり頷くなんて。

――ヤケになったの?

それなら好都合だ。あとで恥をかけば、みっともなさも倍になる。

奈々子は一瞬の動揺を素早く飲み込み、砂糖菓子みたいに甘ったるい笑顔を貼りつけると、親しげに知世の腕へ絡みついた。

『お姉ちゃん、ほんと優しい! 私、信じてた。絶対に私のこと、根に持ったりしないって』

そう言いながら半ば引っ張るように、半ば押し立てるように、知世をピアノのほうへ連れていく。わざと声量を上げ、会場中に届くように。

『...

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