第84章

彼女が手掛けている複合施設の案件は、ついさっき契約を取り付けたばかりだ。これから先も、関係各所とのすり合わせや手続きが山ほど待っている。とてもじゃないが、足止めを食らっている暇なんてない。

――なのに、そのとき。

陸原の母が突然「ひっ」と息を呑み、額を押さえた。みるみる顔色が青白くなる。

「やだ……なんだか急に、頭がぐらぐらして……気持ち悪い……」

眉を寄せ、苦しさに言葉も続かないといった様子で、か細い声を絞り出す。

「知世、私の身体……もう持たないかもしれないの。ねえ……もう少しだけ、ここにいてくれない?」

こめかみに滲んだ冷や汗を見て、林原知世の胸がすっと沈んだ。

さっき看...

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