第87章

彼女の声は大きくはない。けれど狙い澄ましたみたいに、林原父と林原母の注意を、正確にそちらへ引き寄せた。

林原母が振り返って林原知世を見つけた瞬間、顔色がすっと沈む。叱りつけようと口を開きかけた、その腕を林原奈々子がそっと掴んだ。

『ママ、やめて』

林原奈々子は、今にも泣き出しそうな顔で見上げる。

『お姉ちゃんも具合悪いの? だから病院に……? 私のせいだよね。足をひねって、みんなに心配かけちゃって……お姉ちゃんのこと、聞く余裕もなくて……』

そう言いながら、林原母の手を軽く押し返し、柔らかな声で続けた。

『パパ、ママも……お姉ちゃんのこと、気にかけてあげて。お姉ちゃん、ひとりでこ...

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