第89章

彼女は最後まで必死だった。男の体を支え、なんとか自分のバイクの後部座席に乗せると、滝みたいな豪雨の中を走り、いちばん近い小さな診療所の前まで運んだ。

診療所の人間に引き取られるのを見届けると、名前すら名乗らないまま、彼女はバイクを走らせて雨の帳の向こうへ消えた。

あとになって、ふとその出来事を思い出しては「あの男はいったい何者だったんだろう」と考えることもあった。けれど時間が経つにつれ、記憶は少しずつ薄れていった。

林原知世は信じられないものを見るように宮崎直志を見た。唇がかすかに震える。

『あの……雨の中で倒れてた人……あなた、だったの?』

『俺だ』

宮崎直志は迷いなく肯定した...

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