第123章 小西由希の誘い

刹那、広瀬結月は瞳孔を見開き、反射的に手を伸ばした。

だが、掴んだ瞬間にはもう遅い。パイ生地は掌の中でぐしゃりと潰れ、ただの団子みたいになってしまった。

結月は崩れ落ちそうな顔で、台無しになったパイを見つめる。次の瞬間、胸の奥から絞り出すような悲鳴が漏れた。

「うあああ……!」

真理は彼女の肩をぽん、と叩き、小さく首を振る。

「最初からやり直そ」

工房の空気には、濃厚な香りが満ちていた。果木炭の香ばしい焦げと、蓮の餡の甘さが溶け合い、深いのにしつこくない。

真理は、ゆっくりと膨らんでいくパイを眺めながら、目尻をふわりと下げた。記憶が、静かにほどけていく。

前の人生で、真理は石...

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