第169章 彼に命を一つ借りている

石橋結翔は、また怒るに決まっている。

そうなれば、どちらにとってもろくな結末にはならない。

真理がそっと胸元を押さえた、そのときだった。前方の松下が、どこかぎこちない声で言う。

「……もう、間に合いません。奥様」

「え?」

真理は思わず目を見開いた。

松下は咳払いを二度してから、言いにくそうに続ける。

「石橋社長が……もう、いらしてます」

車は途中で止まり、真理はようやく顔を上げた。前方には車列ができていて、石橋結翔は先頭の車のボンネットに腰掛けている。

冷え切った視線がフロントガラスを貫き、まるで真理の体温だけを狙って刺してくるみたいで——背筋が粟立った。

ぶるり、と大...

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