第57章 唯一の女

何より――真理の唇はさっきよりも紅く、ほのかに腫れている。首筋には、髪で隠しきれない程度の赤い痕が、ちらりと覗いていた。目ざとい人間なら見逃すはずがない、あからさまな「匂わせ」。

成田文音の視線は、その痕に釘付けになった。指先が掌に食い込み、鋭い痛みが走る。だが、胸の奥で渦巻く嫉妬の熱に比べれば――そんなもの、どうでもいい。

あの万年筆は、たしかに自分のものだ。たしかに、おじいちゃんの遺品でもある。

けれど、さっき部屋を出た時、慌てて置き忘れるほど取り乱してはいなかった。

わざと置いていったのだ。引き返すための「もっともらしい口実」を作るために。

なのに――真理はまだいた。

それ...

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