第88章 温泉での甘いひととき

広瀬結月が慌ただしく立ち上がると、ばしゃり、と水花が散った。

「真理、なんか急に暑くなってきた……きのこ汁、もう用意できてるはずだし。先に中で待ってるね」

バスタオルを身体に巻きつけたまま、ふらつく足取りで屋内へ駆けていく。

真理は温泉の縁の石に肘をつき、結月が消えた方向を不思議そうに見送った。

けれど、こんなに気持ちいい時間は滅多にない。もう少しだけ浸かっていたい。

冷たく滑らかな岩にもたれ、首から下をぬるい湯に沈める。ふう、と息がほどけ、まぶたがとろりと落ちた。

――気が緩みすぎたのか。あるいは、ここなら安全だと信じ切っていたのか。

真理は背後に忍び寄る気配に、まるで気づか...

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