第90章 ハンドメイド工房

真理は顎を少し上げて彼を見つめた。鼻先が、きちんとアイロンの当たったシャツの襟元に触れそうな距離。息を吸うたび、彼の身体にまとわりつく澄んだシダーの香りが鼻をくすぐる。

堪えきれず、つま先立ちになる。額でそっと彼の顎をこすれば、月白のスカートの裾がふわりと揺れて、淡い光の輪郭を揺らした。

ちょうど顔を上げた松下玄が、書類ファイルを抱えたままその光景にぶつかる。目の奥に、隠しきれない驚嘆が満ちた。

石橋社長が菅野さんに向ける想いは、彼だって知っている。……それでも、思わず息を呑んだ。

石橋結翔の傍に付いて数年。交渉の席での容赦のなさも、何千万の契約書を前にして眉ひとつ動かさない冷静さも...

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