第1章

絵里視点

 三年。

 私は公園のベンチに座り、無意識にスマートフォンの画面を指でなぞっていた。プラタナスの葉を透かした秋の日差しが膝の上に落ちてくる。暖かくて、まるで智也がまだ隣にいた、あの日のようだった。

 いや、彼のことを考えてはだめ。今日は思い出に浸っている場合じゃない。

 視線は、遥か彼方の遊び場に吸い寄せられるように向けられていた。手元にある情報が語るには、黒木悟刑事は毎週水曜の午後、五歳になる弟の裕也を、寸分の狂いもなくここに連れてくる。三年という途方もない監視の日々を経て、私は彼の生活の細部まで、骨の髄まで知り尽くしていた。

 彼が愛飲するコーヒーの銘柄、行きつけのクリーニング店、そして、あの左肩に刻まれた、あの傷跡のことまで、すべて。

 その傷は、私の両親が彼に残した最後の形見だった。

「悟兄ちゃん! 悟兄ちゃん、どこー!」

 澄んだ声が私の思考を遮った。声の方へ目を向けると、心臓が跳ねた。

 裕也だった。

 十メートルほど離れた場所に、立っていた。顔を真っ赤にし、瞳にはすでに涙が浮かんでいる。青いパーカーを着て、ジーンズの膝には今日遊んでつけたばかりの真新しい草の染みができていた。

 絶好のタイミングね。

 私は深く息を吸い、心の氷を一時的にしまい込み、できる限り優しい表情を浮かべた。

「どうしたの?」私は彼に駆け寄り、目線を合わせるように屈んだ。「ご家族とはぐれちゃったの?」

 裕也は袖で鼻を拭い、しゃくりあげながら頷いた。「兄ちゃんが見つからないの。ベンチのそばで待っててって言われたけど、いっぱいベンチを見たけど、いないんだ……」

「心配しないで、大丈夫よ」私は彼の肩にそっと触れ、数えきれないほど練習した優しい声色で言った。「お兄さんに電話してあげようか? 電話番号、わかる?」

 完璧。この子は私の切り札になる。

 裕也は素直に数字の羅列を口にした。

 もちろん、その番号はずっと前に暗記していた。それでも、初めて聞くふりをして、慎重にスマートフォンに入力した。

 通話ボタンの上で、指を数秒間ためらわせる。

 三年。私はついに、あの声を再び聞くことになる。裁判所で、両親が「公務執行妨害及び警察官への暴行」に及んだと証言した、あの声を。

 通話が繋がった。

「もしもし?」スピーカーから、明らかに警戒した様子の低い男性の声が聞こえた。

 私は喉の調子を整え、わざと少し緊張した声を作って言った。「あの、弟さんをお預かりしています」

 電話の向こうが一瞬、シンと静まり返り、それから怒りに爆発した。「何だと? 誰だお前は! 裕也に何をした! もしあの子に何かあったら、ただじゃおかないぞ.......」

「まあ、大変! 言い方が悪かったです!」私は慌てたふりをして、素早く彼の言葉を遮った。「いえ、弟さんの電話番号を見つけるのを手伝ったんです! 公園で迷子になってしまって、今、私と一緒にいますから、無事ですよ!」

 よし、見事に食いついてきた。

「何? 裕也がそちらに? あいつは大丈夫なんですか?」悟の声は、怒りから一瞬で心配へと変わった。「今すぐ行きます! 公園のどこですか?」

「正門近くのベンチのあたりです。大丈夫ですよ、少し怖がっているだけです」私は腕の中の裕也に目をやった。彼はもう泣き止んでいた。「でも、早く来てあげてください、この子、すごく寂しそうですから」

「五分だ、五分でそこに着く!」

 電話が切れた。私はスマートフォンをしまい、腕の中の裕也を見た。彼は澄んだ瞳で私を見つめている。まるで……小さい頃の智也のように。

「兄ちゃん、もうすぐ来る?」裕也は小さな手で私の袖をぎゅっと握りながら尋ねた。

「ええ、もうすぐよ」私は彼の頭を撫でながら、胸に予期せぬ痛みを感じた。

 どうしてこの子は、こんなにも智也に似ているの? どうして、こんなに無邪気に笑うの?

 五分も経たないうちに、一台のパトカーが公園の入り口に停まった。長身の影が車から降りて、足早にこちらへ向かってくるのが見えた。

 黒木悟。

 私の両親を殺した男。

 この距離からでも、彼の顔立ちははっきりと分かった。

 百九十センチ近い長身、広い肩幅、太陽の光を浴びて金色に輝く茶色の髪。紺色の制服は、彼を精悍で威厳ある人物に見せていた。

 彼の本性を知らなければ、私もこの外見に騙されていたかもしれない。

「裕也!」彼はほとんど走るようにして、私たちの方へ叫んだ。

「兄ちゃん!」裕也はすぐに私の手を離し、兄のもとへ駆け寄っていった。

 私は立ち上がり、表情を整え、夢にまで見たこの瞬間に備えた。

 悟は裕也を抱き上げ、きつく抱きしめると、私の方へ向き直った。「警視庁の黒木悟です。弟がお世話になりました。本当にありがとうございます」

 彼の声は電話越しよりも低く、魅力的で、その茶色の瞳は感謝に満ちていた。この近さだと、彼のつけているコロンの香りまで微かに分かる。

「どういたしまして」私は微笑んで言った。「とても可愛らしい子ですね、私の……弟を思い出しました」

 これは演技ではなかった。裕也は本当に智也を思い出させた。

「あなたは本当に親切な方だ」悟の眼差しは、先ほどよりもずっと温かみを帯びていた。「もしよかったら、お礼にコーヒーでもご馳走させていただけませんか。この近くに、すごくいいお店があるんです」

「ええ、喜んで」答えはほとんど自動的に口から出ていた。

 私たちは連絡先を交換した。

 彼が私のスマートフォンに「悟」と入力したとき、私は表情を崩してしまいそうになった。三年、この名前が、ついに私の連絡先リストに加わった。

「では、明日お電話します」彼は裕也を抱いたまま、去り際に尋ねた。

「ええ。お待ちしています」

 私は彼らが警察車両に向かって歩いていくのを見送った。悟の肩越しに、裕也が手を振っている。その無垢な笑顔に、私の心臓は突然締め付けられた。

 車が発進し、そのテールランプが夕日の中に少しずつ溶けていく。

 私は一人たたずみ、パトカーが交通の中に消えていくのを見つめていた。

 目を閉じ、三年前のあの夜を無理やり思い出す。

 血の海に横たわる両親の姿、裁判所での悟の冷酷な証言、そして両親を失って憔悴しきっていき、ついには……

 だめ。甘くなってはいけない。五歳の子供の笑顔ごときで、自分の使命を忘れてはならない。

 再び目を開けると、私の表情はいつもの硬さに戻っていた。

「ゲームの始まりよ、黒木悟」私は静かに言った。その声は、誰もいない公園に不気味なほどはっきりと響いた。

 復讐は、今夜から始まる。

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