第2章
絵里視点
一週間。その一週間で、悟を私に完全に惚れさせなければならない。
月曜の朝、午前五時半。二十四時間営業のジムの前に立っていた。
一時間もかけてフルメイクしたというのに、まるで今、朝のワークアウトから帰ってきたばかりのように見せなければならない。トレーニングウェアに揺れるポニーテール、そして汗でほんのり濡れたような艶のある肌。完璧な「朝活フィットネス女子」の演出だ。
午前六時ちょうど、悟の黒い車が駐車場に現れた。
深呼吸を一つして、カードをスワイプしてジムに入った。
トレッドミルの上で、ゆっくりとしたジョギングに集中しているふりをしながら、片目で入り口を窺う。三分後、見慣れたその姿が現れた。
「絵里?」
私は驚いたふりをしてイヤホンを外し、振り返った。「あら、悟! こんなところで会うなんて偶然ね」
悟はグレーのスポーツシャツを着ていて、髪がまだ少し湿っている――来る前にシャワーを浴びてきたのは明らかだ。少し驚いているようだったが、どこか嬉しそうでもあった。
「君もここでトレーニングしてるのか?」彼はトレッドミルに近づいてきた。「今まで見かけたことなかったけど」
「ここで朝活するようになって、もう三年になるわ」私は存在しない汗を拭った。「あなた、もしかして新入りさん?」
「この地区に転勤してきたばかりなんだ」彼は頷いた。「なあ……一緒に走らないか? 外でジョギングしようと思ってたんだ」
『完璧、筋書き通りだわ』
「ええ、いいわよ。気分転換にもなるし」
私たちは一緒にジムを出た。C市の朝の空気はひんやりと澄んでいたが、私の血は沸騰するような感覚だった。
「走り始めてどれくらいになるんだ?」と彼が尋ねた。
「四年くらい…かしら」私は言った。「ストレス解消で始めたのが、いつの間にか習慣になって。ジャーナリストって、結構ストレスが溜まる仕事だから」
「ああ、わかるよ」彼の声は、ひどく優しかった。「警察官も、まったく同じだ。走っている時だけが、頭を空っぽにできる、唯一の時間だったりする」
私たちは湖畔の道を二十分ほどジョギングした。その間、彼は仕事のこと、事件が多すぎることへの不満、新しい環境に裕也が馴染めるかという心配などを打ち明けてくれた。私は完璧な聞き役に徹し、絶妙なタイミングで気の利いた相槌を打った。
『彼、心を開き始めてる。完璧』
別れ際、彼は言った。「明日も来るのか?」
「もちろん。六時にまた」
『あなたのスケジュールは全部、コーヒーを飲む時間まで把握してるわ』
――
水曜の昼、G区のカフェ。
窓際の席に座り、新聞とノートを広げて仕事に打ち込んでいるふりをしていた。黒のビジネススーツに、きっちりとした仕事用のメイク――今日の私は、真面目なジャーナリストとしての絵里だ。
十二時四十五分、悟は時間通りに現れた。
私服姿の彼は、明らかに昼休み中だった。私を見つけると、彼の顔が心からの驚きでぱっと明るくなった。
「また会ったね」彼はコーヒーを片手に私のテーブルへ近づいた。「隣、いいかな?」
「ええ、もちろん」私はノートを閉じ、彼に微笑みかけた。「この間、ちゃんと自己紹介するの忘れちゃって」
「『C市新聞』の犯罪記者よ、黒木さんが警察官なのはもう知ってるけど、悪党を捕まえる以外には何をしてるの?」
彼は笑った。心からの、本物の笑い声だった。「弟の面倒を見ることかな。正直、あいつがいないと、俺の世界は成り立たないんだ」
裕也の名を口にした時、彼の眼差しに宿る優しさはあまりに本物で、私の胸は不意にきゅっと締め付けられた。
『感傷的になるな、絵里。こいつがあなたの家族をめちゃくちゃにしたことを思い出すのよ』
「それはすごく大変でしょうね、シングルファザー…じゃなくて、シングルブラザー、かしら?」
「両親は死んだんだ」彼の表情が翳った。「五年前の交通事故で。それ以来、裕也のことは俺がずっと」
『私の両親は交通事故なんかで死んでない、あなたが射殺したんでしょう!』
「ごめんなさい」私は感情を抑えるのに必死だった。「そんな、踏み込んだことを聞くべきじゃなかったわ」
「いいんだ」彼は首を振った。「君は事件記者なんだろ。たくさんの悲劇を見てきたはずだ。君みたいに温かい人と出会えたのは、人生がくれた埋め合わせなのかなって、時々思うよ」
『温かい? もし本当の私を知っても、まだ同じことが言えるかしら?』
私たちは四十分ほど話した。私は正義への情熱と弱者への配慮を完璧に演じてみせた。どの話題も、彼に私たちが魂の伴侶だと思わせるよう、慎重に設計されていた。
別れ際、彼は言った。「君のことをもっと知れたら、と心から思うよ」
「私もよ」
『あなたのことはもう十分に知っているわ。今度はあなたが私を知る番、偽りの私をね』
――
土曜の午後、成城石井。
私はオーガニック野菜のコーナーでカートを押していた。カジュアルなジーンズにセーターという、ごく普通の都会の女性といった装いだ。
午後三時二十分、聞き覚えのある声がした。
「兄さん、あれが欲しい!」
振り返ると、裕也が棚のチョコレートクッキーを指さし、悟がもっと健康的な選択肢へと彼を誘導しようとしていた。
「あ、きれいなお姉ちゃんだ!」裕也が突然私に気づき、興奮して手を振った。
悟が顔を上げ、その表情がたちまち明るくなる。「また偶然だな」
「こんにちは、裕也くん!」私はしゃがんで彼に挨拶した。「お兄さんのお買い物、手伝ってるの? 偉いわね」
「ジャンクフードが欲しいんだ」悟は少し困ったような顔をした。「でも、健康的な食生活を身につけさせようとしてるんだけど」
「それは簡単じゃないわよね」私は理解を示すように頷き、それから裕也に言った。「ねえ、もし今日りんごを選んだら、今度は小さなクッキーを一つ食べてもいいことにしない? その方がお兄さんもずっと喜ぶと思うわ」
裕也は少し考えると、本当にとことことりんごを取りに行った。
悟は感謝の眼差しで私を見た。「すごいな、三十分も格闘してたのに、全然ダメだったんだ」
「私にも…弟がいるから」私は言った。「だから、少しは経験があるの」
『智也、またあなたのことを考えてしまってごめんなさい』
私たちは一時間ほど一緒に買い物をした。私は完璧な家庭的なイメージを演出した――料理ができて、健康的な生活を愛し、子供の扱いにも慣れている。裕也はすぐに私に懐き、私の手を握ってあれこれと質問してきた。
会計の時、悟が不意に私の方を向いた。「水原さん、もしよかったら…正式に、ディナーに誘ってもいいかな」
彼の真剣な表情を見て、私の心臓が急に高鳴った。
『任務完了』
「喜んで、黒木さん」
「明日の夜七時はどうかな? すごく美味しいイタリアンレストランを知ってるんだ」
「素敵ね」
裕也が私たちの横で手を叩いた。「やった! きれいなお姉ちゃんとご飯だ!」
「俺と絵里だけだよ」悟は彼の髪をくしゃくしゃにした。「家で待っててくれ」
私はその光景に微笑みかけながら、頭の中でタイミングを計算していた。
『今から二十四時間後、このすべてが終わる』
――
午後十一時、アパート。
ドアを閉め、背中を預けて長い息を吐き出した。一日中演じ続けたせいで、疲れ果てていた。
寝室へ歩いていき、クローゼットを開け、一番奥から小さな箱を取り出した。中には両親の遺品がきちんと整理されて入っていた。二人の結婚写真、母のネックレス、父の時計、そして……
警察の死亡報告書。
震える手で、黄ばんだ書類を開いた。そこにはこう書かれていた。
【執行警官 黒木悟刑事】
【死因 逮捕抵抗中の致命的な銃撃】
【備考 被疑者らは武装し抵抗、警官の安全に脅威を与えた】
一言一句が、ナイフのように私の心を切り裂いた。
『武装なんかしていなかった。ただ自分たちを守ろうとしていただけ』
私は報告書を箱に戻し、ドレッサーへ向かった。明日のデートには何を着ていこうか。赤いドレス? それとも黒?
『赤。血のように赤い赤』
服を選び終えると、ナイトスタンドへ歩いた。一番下の引き出しに、小さな金庫が入っている。
コードを入力する、智也の誕生日だ。
金庫が開き、中に静かに横たわる小さな小瓶が現れた。
無色透明、無臭の液体。研究所に勤める友人は、この毒は三十分以内に致死量に達し、検出は不可能だと言っていた。
『復讐のための、完璧な道具』
私は小瓶を手に取り、光にかざして注意深く調べた。液体は水晶のように透き通り、ただの水と変わらない。
明日の夜、これを悟のワイングラスに注ぐ。そして、私の両親がそうだったように、彼が苦しみもだえて死んでいくのを見届けるのだ。







