第5章

絵里視点

午後六時、私はキッチンに立ち、ガラスの小瓶を手にしていた。

中の液体は、無色透明で、嗅覚にも何も訴えかけてこない。まるでただの水だ。だが、これが成人男性を十五分で意識不明に陥れ、二十分で心臓を停止させる劇薬であることを、私は知っていた。

『これが、三年間待ち続けた復讐』

小瓶をスパイスラックの陰に隠し、パスタの準備を始めた。悟が一番好きな、キノコとホワイトソースのパスタだ。

なんて皮肉なことだろう。彼の好みを、私はちゃんと覚えていたのだ。

この三年間、夢の中で血の海に倒れる父と母の姿を、数えきれないほど見てきた。

そして今夜、引き金を引いたあの男が、その代...

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