第10章

たぶん、鈴木青美があの日ここへ戻ったとき、うっかり落としていったんだろう。

早村謙介は膝を折り、診断書を拾い上げた。

薄い紙切れ一枚。重さなんて、ないも同然。それなのに、指先が微かに震える。

白い紙に黒い文字。病院の朱印が、やけに赤くて目に刺さった。

肝臓占拠性病変。腫瘍性病変の可能性。精密検査を推奨。

日付は――レース事故の日。

彼女は、嘘をついていなかった。

一文字たりとも。

なのに自分は、あのとき何と言った?

「そんな嫉妬の仕方、幼稚だ」

「瑞子に嫉妬してるのはわかる。でも必要ない」

報告書は、早村謙介の手の中でくしゃりと深い皺を刻んだ。

鈴木青美のスマホに、新...

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