第105章

早村謙介は花束を買った。けれど、ラーメン屋には戻らなかった。

花を抱えたまま、彼はふたりの家へ向かって歩く。胸いっぱいに満ちる梔子の香りが、かつて腕の中にいた人を思わせた。

笑いたいのに、涙だけが止まらない。

昨夜、葉山惠也が帰ったあと、彼はまたこっそり鈴木青美のマンションの下まで行った。最上階の主寝室の灯りが、朝までずっと点いたままだった。

そのときようやくわかったのだ。

ひとりの女が、自分のために一晩中眠れずにいる――そんなことを許されていた自分が、どれほど幸運だったか。

そして同時に、思い知った。

ひとりの女を、いつも自分のせいで眠れなくさせていた自分が、どれほど卑劣だっ...

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