第106章

周防誠は喉仏をひとつ上下させた。何か言わなきゃと思うのに、急に喉の奥が詰まって、声が出ない。

『今さら思うんだ。彼女が最初に離婚を口にしたとき、俺はあの協議書にサインすべきだったって。あのとき別れていれば、まだ取り戻すチャンスがあったかもしれない。……いや、俺は俺で、白原礼子への執着に目を塞がれたまま、都合のいい嘘を抱えて生きてただけかもしれないけど』

早村謙介は言葉を切り、苦く笑った。

『とにかく、互いに平穏でいられた。最後の最後まで拗れたりしないで済んだ。あいつに、あんなに傷を――』

そこから先は続かなかった。

不意に、涙がぽとりと落ちて、丼の中へ吸い込まれる。

周防誠の目元...

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