第110章

早村謙介は勢いよく顔を上げた。張りついていた静けさが、ようやくひび割れる。

『せっかくの展覧会をな』祖父の声が、みるみる冷えていく。『あれを、あの女が台無しにした。青美のギャラリーが開いて以来、彼女が主催した初めての個展だったんだぞ』

早村謙介の指が、わずかに丸まった。

彼は視線を落とし、自分の手の甲に残る、薄れかけた傷痕を見つめる。長い沈黙。

祖父はその様子に腹の底が煮えくり返ったが、どうにか堪え、噛みしめるように言葉を継いだ。

『お前も商売人だ。展覧会が潰れるって、どういう意味か分かるだろう。白原礼子があんなふうに大勢の前で騒げば、青美の評判も商売も傷がつく。本来なら青美と繋が...

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