第114章

早村謙介は立ち上がった。

白原礼子は顔を上げ、口をわずかに開いたまま彼を見つめる。言いたいことは山ほどあるのに、どこから言えばいいのか分からない――そんな顔だった。

けれど早村謙介は、彼女を見なかった。

『君とは結婚しない』そう言って、冷たく言い切る。『永遠に』

白原礼子の涙が、また溢れた。音もなく頬を伝い落ちる。

『謙介……』

早村謙介は視線を外したまま、淡々と続けた。

『これから先、俺が直接世話をすることもない。でも、生活のことはできる限り面倒を見る。付き添いの人間も、医療チームも、腎臓の提供先も、手配する。ベルリンに戻って治療したくないなら、住める家も用意する。落ち着ける...

ログインして続きを読む