第120章

国際的に名の知れた芸術家・安田傑の個展が、鈴木青美のギャラリーで開幕したその日――A市は文字どおり沸き返った。

ギャラリー開業以来、最大のマイルストーン。

安田傑の作品は、そう簡単に展示許可が下りない。ましてアジアでの開催など、ほとんど前例がない。

業界はざわついた。気難しいことで有名な老巨匠が、いったい何を見込んで、開業から一年も経たない新しいギャラリーに自作を託したのか――と。

だが、それを知っているのは鈴木青美だけだった。

彼女はフランスへ合計六度飛び、作品案も企画書も、数えきれないほど持ち込んだ。

六度目。ようやく安田傑は契約書を彼女の前へ滑らせ、たった一言だけ告げた。

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