第126章

『その話はやめろ』早村謙介は手にしていた蜜柑を、そっとベッドサイドの棚に置いた。

白原礼子は答えない。

『……覚えてる?』

しばらくして、彼女は独り言みたいに言った。

『初めてデートした、あの公園』

早村謙介の手が、ぴたりと止まる。

『あの日、雨だったのに、あなた、どうしてもボートに乗るって言って。湖の真ん中まで行ったところで雨が強くなって、二人ともびしょ濡れになった。私が風邪ひくって、あなた、自分の上着を脱いで私にかけて……自分は半袖のまま漕いでた。寒さで唇、紫になってたよね』

白原礼子は口元をわずかに緩め、懐かしむような目をした。

早村謙介は何も言わない。

視線を落とし...

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