第14章

店の二階で、村田黒人は階下に停まった車から飛び降りてくる早村謙介を、横目で捉えた。

「青美、旦那さんが来たぞ」

「元夫よ」鈴木青美は表情ひとつ変えずに言う。「動かないで。……ここ、白髪がもう一本ある」

村田黒人はくすりと笑い、言われるがまま顎を少し上げた。鈴木青美が指先で髪を探るのに合わせ、じっとしてやる。

彼女の真剣な横顔を見上げた途端、初めて会った日のことがふっと脳裏をよぎった。

あの頃の鈴木青美も、今日みたいに白いワンピースを着ていた。今ほどの艶や落ち着きはなく、やわらかくて頼りなげで――村田黒人は、正直「ハンドルすら回せないんじゃないか」と疑ったほどだ。

ところがサーキッ...

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