第58章

いつ戻ってきたのか、彼はいつの間にか彼女を腕の中に抱いていた。

「悪い夢でも見た? 大丈夫。夢だよ。俺がいる」

そう言って、早村謙介が汗に濡れた彼女の額へ手を伸ばす。

だが鈴木青美の全身がびくりと強張った。反射的に身を引き、力いっぱいその手を払いのける。

「触らないで」

掠れた声。

不意を突かれた早村謙介の手が、宙で止まる。

隠しもしない警戒の色が青美の瞳に浮かんでいて、胸の奥がひやりと冷えた。

ほんの一瞬、何かが自分から遠ざかっていく感覚があった。だが、それは速すぎて掴めない。瞬きほどの時間で、消えた。

鈴木青美は起き上がって距離を取ろうとした。けれど体を起こした途端、ぐ...

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