第2章

あの日、南条硯介は私をあるプライベートな晩餐会へと連れて行った。

彼が選んだドレスを身に纏い、入念に化粧を施した私が会場に足を踏み入れると、見覚えのある人影が目に留まった——月野薰だ。

彼女は、私が想像していたよりもずっと美しかった。

大きくウェーブのかかった髪、輝く瞳に赤い唇。立ち居振る舞いのすべてが、スターの輝きを放っている。

その視線が私に向けられた時、私はどこか異質な、値踏みするようなものを感じた。

南条硯介がビジネスパートナーと話しに行った隙に、彼女はゆったりとした足取りで私の前まで来ると、私を上から下まで眺め回した。

「あなたが硯介の彼女なのね。彼があなたを気に入るわけだわ、本当に私とそっくり」

私はその場で凍りつき、どう返事をすればいいのかわからなかった。

確かに、多くの人にそう言われたことがある。以前はそれを褒め言葉として受け取っていた。女優に似ているというのは、私が綺麗だということを認めてくれているのではないか、と。

だがこの瞬間、私はようやく別の意味を悟ったのだ。

「知ってる?」

彼女は私の耳元に顔を寄せ、声は優しいのに棘があった。

「あなたに出会う前、硯介は何年も私に片想いしてたのよ。残念ながら、当時の私は別の人を選んだけど」

「彼は私のためにたくさんの受賞脚本を選んでくれたし、一族の影響力を使って私の芸能活動を保障してくれたわ」

月野薰は続けた。

「今、私は離婚した。彼もようやくチャンスが巡ってきたってわけ」

そこで私は理解した。あの日、南条硯介が私を選んだのも、ただ私と彼女が似すぎていたからなのだと。

それからというもの、南条硯介が私に会いに来る頻度は減り、私はまるで隅の方に忘れ去られたかのようだった。数ヶ月後、彼がようやく私のことを思い出したかと思えば、私に手渡されたのは一枚の、死へと向かう航空券だった。

どうして彼を恨まずにいられようか?

佐藤の声が次第に小さくなり、業務報告を終えた彼は部屋を出ようとした。その時、不意に南条硯介が問いかけるのが聞こえた。

「彼女はもう目的地に着いた頃だろうか?」

主語のない、唐突な一言。

佐藤は即座に察した。

「フライト時間からしますと、到着しているはずです」

なるほど、その『彼女』とは私のことだったのか。

南条硯介は黙り込み、その修長の指がテーブルを軽く叩いている。この仕草には見覚えがありすぎる。彼が考え事をしている時や、焦燥に駆られている時、いつも無意識にこうしてテーブルを叩くのだ。

私は歩み寄り、彼の感情を読み取ろうと試みた。

しかし目に映ったのは、彼が手に取ったスマートフォンの画面。そこに表示されていたのは、私たち二人のチャット画面だった。

三十分前、彼は私にメッセージを送っていた。

『今後、何か困ったことがあれば、佐藤補佐に連絡するように』

彼のメッセージに、私が三十分以上返信しなかったことはない。

もし私が死んでいなければ、きっと返信していただろう。

『わかった』と送るか、あるいは『必要ない』と。

残念ながら私はもう死んでいる。死人がメッセージに返信することはない。

「最近、彼女と連絡は?」

佐藤は僅かに首を横に振った。

「いえ、あの日、航空券をお渡しして以来、一度もお会いしておりません」

「椿様にお電話して、確認いたしましょうか?」

佐藤補佐は慎重に提案した。

南条硯介の表情が一瞬にして硬くなる。彼はスマートフォンを置いた。

「必要ない。彼女のことは、今後一切報告しなくていい」

そう言うと、彼はスマートフォンの設定を開き、私の連絡先をすべて削除した。

その瞬間、私はまるで二度目の死を味わったかのような感覚に陥った。

私はこの息の詰まるようなオフィスから立ち去ろうと踵を返したが、ドアまで来た時、奇妙な抵抗感に阻まれて前に進めなくなった。

さらに数歩進もうと試みるも、まるで目に見えない縄で引っぱられているかのように、南条硯介から遠く離れることができない。

振り返ると、彼は書類の処理を続けている。その姿を見つめていると、私たち二人の間に奇妙な繋がりが、あるようでないように揺らめいていた。

浮遊霊となった私は、どうやら何らかの力によって縛られ、南条硯介のそばに付き従うことしかできないらしい。

これは一体どういう超自然的なルールなのだろう? 彼への憎しみが深すぎるからか、それとも私たちの間に未練が残っているからか? 私には理解することも、抗うこともできなかった。

おそらくこれが私の運命なのだろう——死してなお、この関係から真に逃れることはできず、ただ無言の傍観者として、彼の人生が続いていくのを見届けるしかないのだ。

ほどなくして、南条硯介のスマートフォンが鳴った。

電話に出た彼の声には、私が一度も聞いたことのない優しさが滲んでいた。

「うん、今からそっちに迎えに行くよ」

相手は月野薰だ。

彼が彼女に話す時のその口調を、私は知りすぎている。

十分も経たないうちに、南条硯介は身支度を整えてオフィスを出た。

私はあの見えない力に引っぱられ、否応なく彼に続いてビルを出て、彼の高級車に乗り込んだ。

車窓の外を、東京湾の華やかな街並みが猛スピードで過ぎていく。かつて希望に満ちてやってきたこの街が、今はひどくよそよそしく、遠いものに感じられた。

車が撮影所の前に停まると、月野薰が入り口で待っていた。

今日の彼女はベージュのトレンチコートを羽織り、長い髪を肩に流し、輝く瞳に赤い唇が映え、光り輝いていた。南条硯介が車から降りるのを見ると、彼女はすぐに彼の胸へと飛び込んだ。

二人は十指を絡ませ、私は彼らの手に同じデザインの婚約指輪がはめられていることに気づいた。

認めざるを得ない。彼らは確かにお似合いだ。並んで立つ二人は、きらきらと輝いて見えた。

「旅客機の墜落事故、聞きました? 本当に恐ろしいですね」

そばで通行人が話している。

「百人以上乗っていて、生存者は一人もいないとか」

私は黙って傍らに立ち、他人が私の死について語るのを聞いていた。

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