第4章
ケイルは崖道へ向かって駆けだした。
その瞬間、私は下へ落ちた。
銀が腰と肋に噛みついた。
大顎の罠。パックの農地に入り込むイノシシ用に仕掛ける種類だ。狩りの前に撤去されているはずだった。だが、されていなかった。
銀は骨が砕けたのと同じ瞬間に血へ入り込んだ。右腕が身体の下で不自然な方向に折れ曲がる。頭が横に倒れ、土へ打ちつけられた。ほんの半秒のうちに、血はもう私の下で広がり始めていた。
意識がふわりと持ち上がった。
私はまた崖の上にいた。ケイルの隣に立っている。風は私に触れない。
最初に口を開いたのはヴェスパーだった。五秒前まで飾り立てるように泣いていた狼とは思えない落ち着きようだ。
「ベータよ。あの程度の落ち方で私たちは死なない。あの人、また芝居してるの――お兄さま、二年目にやったの覚えてる? 巣穴の屋根に登って、半晩も降りてこなかったのよ」
リヤはすぐにうなずいた。
「嘘よ。演技してるだけ」
ケイルは縁に立ったままだった。一歩も退かない。口元は細い線のように固い。
「下りる」
「お兄さま――」ヴェスパーの声が、縫い目のところでちょうどいい具合にひび割れた。
「だめ。お願い。下りたらあの人の勝ちよ――またパックのみんながあの人を見ることになる――お願い、そんなので報いてあげないで――」
「ヴェスパー――」
「私のせい?」彼女は手を口に当てた。涙はもう頬を伝っている。
「私のせいなの? だから今夜、私が言ったことを信じてくれないの? 私、何か悪いことした――」
リヤが彼女の前に出て、その手を取った。少女は七歳で、その小さな顔には執行官のような決意が据わっていた。
「お母さんを放っておいて。あんな女のために下りちゃだめ」
ケイルは動かなかった。
アルドリックも動かなかった。
私は、伴侶が視線を崖の縁からヴェスパーの濡れた目へ、さらにその手を握りしめる小さく猛々しい手へと移すのを見ていた。崖のほうへは二度と目を向けなかった。
ヴェスパーの頭の奥では、澄んだ水のような音がしていた。
明日。
明日、パックの書記が「絆」を記録する。明日、彼女はマーカスとレナーとともに家族の巣穴に立ち、公の場で、記録として、彼らは彼女を「娘」と呼ぶ。肩の伴侶の絆の痕は、パックの名簿に事実として書き込まれる。パックが事実になる。娘が事実になる。母が事実になる。
ほかの小さな狼たちが何かに属していいのだと、初めて気づいたのは六歳のときだった。七歳で、彼らの一人に見える方法を見つけた。十歳で、合図ひとつで泣けるようになった。
二十六年後、その手口は底まで――最後の最後まで――通用した。
彼女はリヤの手をきゅっと握り返した。
靴音、駆けてくる足音。
罠を仕掛けた国境の執行官が、半獣化のまま空き地へ飛び込んできた。まだ皮膚へ戻りきっていない。肩幅は不自然に広く、目は完全に狼のものだった。
彼が最初に見たのはアルドリックだった。
「ヴァンス閣下――」
「今はいい」
「ヴァンス閣下」声が震えていた。
「下の尾根――罠がまだ掛かったままで――間に合わなかった――」
ケイルが初めて、完全に振り向いた。
執行官はぶるぶる震えていた。自分の手を見下ろす。銀混じりの血が、顎をこじ開けようとした手首の内側に沿って乾きかけている。
「血が止まりません」彼は言った。
「俺たちが辿り着いた時には、もう――」
