第1章

あの動画を再生するまでは、私は自分が世界で一番幸せな女だと思っていた。

夫である田中隆志が、他の女とセックスをしている映像を見て、私は結婚一周年記念日をキャンセルし、永遠に彼のもとを去った。


柔らかなカシミアのブランケットに身を包み、田中家のリビングのソファに丸くなって温かいラテを手にしていた。『これこそが私の理想の生活』。そう思うと、笑みがこぼれるのを抑えきれなかった。

結婚一周年記念日は、もう一週間後に迫っていた。『神様、もう一年も経ったの?』時間はあまりにも速く過ぎ去り、時々、まだ夢を見ているような気分になることもあった。桜井家の令嬢が田中家の跡取りに嫁いだこと――誰もがそれを政略結婚の完璧な見本だと言ったけれど、この愛が本物だと知っているのは私たちだけだった。

記念日には、何か特別なものを用意したかった。『思い出の動画を編集するのはどうかしら?』そう思い立ち、私はコーヒーを置いて隅にある機材棚へと向かった。隆志はいつもあのカメラで私たちの生活を記録するのが好きだった。「大切な瞬間は全部記録しておきたいんだ」と言って。

「どんなものが撮れてるかな」。私は独り言を呟きながら、カメラの液晶画面を開き、保存されているビデオファイルを閲覧した。

結婚式の映像、ハネムーンの思い出、キッチンで一緒に手料理を作っている微笑ましい光景……『私たち、本当に幸せなんだ』。どのフレームも、そんな甘い時間を思い出させてくれて、間近に迫った記念日への期待をさらに高めてくれた。

『この映像たちを、私たちのお気に入りの曲と一緒に、小さな映画みたいに編集してみようかな』。そうわくわくしながら考え、タッチスクリーンを指で滑らせて、もっと素材を探していた。

その時、見慣れないファイル名が目に留まった。

ひみつ_Y_05.mp4

『Y?』。眉をひそめる。私たちのビデオファイルは、いつも日付で名前をつけていた。このファイル名はおかしい。それに、タイムスタンプは先週の日付を示しているけれど、その日は私が研究室に行っていて、隆志は家で家の用事を片付けると言っていたはずだ。

『仕事関係の何かを録画したのかも』。腑に落ちなかったが、好奇心には勝てず、私は再生ボタンを押した。

映像は徐々にピントが合い、映し出されたのは、私たちの寝室だった。『どうして隆志が寝室で仕事のものを録画するの?』私の混乱は、ほんの数秒しか続かなかった。次に起こったことが、私の世界を完全に打ち砕いたからだ。

そこに映っていたのは、由香里だった。夫の、義理の妹。彼女は私たちのベッドの上に、私が見たこともないランジェリー姿で横たわっていた。

だが、本当に私の血の気を引かせたのは、彼女の肌を愛撫するその手だった。私が隆志の指にはめたのと同じ結婚指輪をつけた手。『隆志の手』。

「いや……」。自分の弱々しい声が聞こえたが、体は麻痺したように動かなかった。

映像は再生され続ける。由香里の息を切らした声が聞こえてきた。「隆志さん……ああ、もう……ずっとこうしたかった……」

続いて、隆志の声が聞こえた。私の心臓の鼓動よりもよく知っているはずのその声が、けれど、聞いたこともない言葉を紡いでいた。「君には夢中になってしまう、由香里。いくらでも欲しくなる」

カメラが、ガタンと鈍い音を立てて床に落ちた。頭のてっぺんから体中に、氷が広がるのを感じた。分厚いブランケットに包まれていても、まるで雪山にいるかのようだった。

『こんなこと、ありえない。絶対に、ありえない』

私の心は、必死に私たちの過去を再生し始めた。幼い頃からの付き合い、私への彼の優しさと献身、誰もが認める完璧なカップルというイメージ。誰もが、隆志は私のことを深く愛していると信じていた。

そして、私も信じていた。

つい先月、家族計画に専念するために、物理学の研究室を休もうかと考えていたことを思い出す。私が妊娠したと知ったら隆志はどれほど喜ぶだろうか、私たちと子供たちのいる未来を思い描いていたのだ。

『葉酸まで飲み始めたのに』。その考えは、自分を完全な馬鹿のように感じさせた。

由香里はただの女ではない。私たちと一緒に育ち、隆志を「お兄さん」、私を「お姉さん」と呼んでいた少女。隆志の父親を守って死んだ運転手の、孤児となった娘。田中家が引き取り、自分たちの子供として育てた少女。

『彼の、義理の妹』。その言葉が、私の頭の中で響き渡った。

私は恐怖に震えながら、映像の続きを見つめた。そこには、私が一度も見たことのない隆志の側面があった。私たちの初夜が完璧なものになるようにと、結婚するまで私との親密な関係を待っていた、あの優しく、礼儀正しい男が、今、他の女と、情熱的で、野蛮になっていた。彼の『妹』と。

まるで、夫の顔をした見知らぬ男を見ているかのようだった。

『誰もが私たちをお似合いのカップルだと思っている』、私は苦々しく思った。桜井家と田中家の結びつき、幼馴染同士の完璧な政略結婚、容姿さえもお互いを完璧に引き立て合っていた。

だが今、この一本のビデオが、私の世界を粉々に打ち砕いた。

どれくらいの時間、カーペットの上に座っていたのだろう。まるで、今見たすべてが幻覚だと告げてくれるかのように、カメラをじっと見つめていた。『何かの間違いに決まってる。そうに違いない』。

しかし、私が隆志の指にはめたあの指輪が、ビデオの中ではっきりと、嘲るように輝いていた。

この壊滅的な痛みに溺れかけていたちょうどその時、聞き慣れた足音が聞こえた。別荘の玄関が開き、隆志が帰ってきたのだ。

「美咲、ただいま!」彼の声が、玄関ホールからいつも通り暖かく、魅力的に響いてきた。「リビングにいるのかい?」

足音が近づいてくるのが聞こえ、私の心臓は激しく高鳴った。『どうすればいい?何もなかったふりをする?それとも、直接問い詰める?』

だが、私が決心する前に、彼はそこにいた。

「何を見ていたんだい?」隆志の声が、すぐ後ろから聞こえた。

私は機械的に振り返り、かつて深く愛したその顔を見た。あの深い茶色の瞳は、見慣れた温かさを湛え、口元には彼特有の笑みが浮かんでいる。『この顔が、さっきまで……』。その先の思考を続けることができなかった。

「私……」口を開いたが、声が出ないことに気づいた。喉に何かが詰まったように、声が閉じ込められていた。

隆志は近づいてきて、優しく私の頬を撫でた。「顔色が悪いよ。気分でも悪いのかな?」

彼の手は温かかったが、私の頭の中は、この同じ手が他の女に触れていたことばかりだった。『この手が、由香里を愛撫していた』。

「大丈夫」私は無理に笑顔を作った。「少し、疲れているだけ」

隆志は眉をひそめ、床に落ちたカメラに視線を落とした。「どうしたんだ、これは?」

心臓が、今にも胸から飛び出しそうなくらい速く脈打った。

「記念日のために何か準備しようと思って、私たちの結婚式のビデオを探していて」私は声を普通に保とうと努めた。「うっかり落としてしまったの」

隆志の表情が和らいだ。彼は屈んでカメラを拾い上げ、何気ない様子で電源を切った。「君はいつも気が利くね。そういうところを愛しているんだ」

『愛している?』その言葉は今、あまりにも皮肉に響いた。

彼は私の隣に座り、私を腕の中に引き寄せた。彼のいつもの香水の香りがしたが、今ではその香りが吐き気を催させた。

「僕たちの記念日は、特別なものになるよ」彼は私の耳元で囁いた。

彼の腕の中で、私は窒息しそうだった。私が心も、体も、未来も、すべてを委ねた男は、偽りの生活を送っていたのだ。

私は目を閉じ、涙を必死にこらえた。『ええ、特別なものになるわ。だって、これが私たちの最後の記念日になるのだから』。

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