第3章

美咲視点

玄関のドアの前に立つ。重厚な玄関ドアに手を伸ばすと、指が震えていた。『ここが私の家、桜井家の屋敷』

事前に連絡はしなかった。できなかった。どうやって両親に電話して、自分の完璧な結婚生活が嘘だったなんて言えるだろう?

ドアが開くと、長年うちで働いてくれている家政婦の真里亜さんが顔を出し、すぐに驚きで目を見開いた。

「美咲さん! なんて嬉しい驚きでしょう」でも、私の様子に気づくと、その笑顔はすぐに曇った。「どうかなさいましたか、お嬢様?」

私が答える前に、居間から母の声が響いた。「真里亜、どなたがいらしたの?」

「美咲様がお帰りです、奥様」

数秒もしないうちに、両親が広い玄関ホールに姿を現した。父の桜井健一郎は、六十五歳になった今も、白髪を完璧に整え、威厳に満ちている。母の恵令奈は、朝の装いでも、いつものように上品だった。

「美咲?」母が駆け寄り、すぐに私を抱きしめた。「こんなに早くどうしたの? 隆志さんは?」

そのたった一つの質問で、かろうじて保っていた平静が砕け散った。堰を切ったように、私は子供の頃以来したことがないほど泣きじゃくりながら、母の腕の中に崩れ落ちた。

「まあ、あなた」母の声は優しかったが、狼狽していた。「どうしたの? 何があったの?」

父が一歩近づき、その表情は守るような怒りで険しくなった。「誰かにお前を傷つけられたんだな」

『誰か』。そんなに単純な話だったら、どんなによかったか。縁を切って立ち去れるような、赤の他人だったら。

「隆志さん……隆志さんなの」私はしゃくりあげながら、なんとかそう言った。

その後に続いた沈黙は、耳が痛いほどだった。両親が二人ともこわばるのを感じた。

「隆志がどうしたんだ?」父の声は危険なほど静かだった。

私は母の腕から身を離し、手の甲で顔を拭った。

「隆志さん、浮気してるの。由香里さんと」

母の顔から完全に血の気が引いた。「なに? そんなはずないわ。由香里さんはあの子にとって妹みたいなものじゃ――」

「違うの」私の声はひび割れていた。「彼のカメラに動画があった。二人が一緒にいるところ。私たちのベッドで」私は目を閉じ、その記憶を振り払おうとした。「もしかしたら、もう何年も前からだったのかもしれない、お母さん。私たちが付き合ってた頃も、婚約中も、結婚してからずっと。ずっと彼女と寝てたのかもしれない」

「なんてことだ」父が息を呑み、両手を固く握りしめた。

「私たちが十八歳の時、由香里さんが突然ロンドンに送られたの覚えてる?」乾いた笑いが漏れた。「隆志さん……あいつ、ずっとロンドンに飛んでたのよ。十回の出張のうち、八回は彼女に会うためだった」

母は近くの椅子に崩れ落ち、胸に手を当てた。「ああ、あなた。いつから知っていたの?」

「二日前」私は言った。「二日前に動画を見つけて、昨日は彼のオフィスで二人が一緒にいるのを見たの。愛してるって言ってた、お母さん。昔、私に言ってくれたみたいに」

その後の沈黙は重く、嵐のように膨れ上がる父の怒りの気配だけがそれを破っていた。

「あのクソ野郎」父の声は氷のように冷たかった。父はくるりと向きを変え、書斎へと大股で歩いていく。「殺してやる」

「健一郎、やめて!」母が後を追って叫んだ。

父がどこへ向かったのか、私には正確にわかっていた。書斎に向かい、銃を取り出そうとするのだ。私は心臓を激しく鳴らしながら、父の後を追った。

「お父さん、やめて!」

私が追いついた時には、父はすでに金庫を開けていた。「あのクズは俺の娘を、俺たちの家族を侮辱した――」

「お父さん、お願い!」私は父の腕を掴んだ。「田中家の御曹司よ。もしそんなことをしたら、両家の関係が破綻してしまう。あの人のせいで、お父さんが傷つくなんて絶対に嫌」

父の手が銃の柄の上で止まった。その暗い瞳が私を捉え、理性が怒りとせめぎ合う瞬間が見て取れた。

「あいつは、絶対に許されない」父は静かに言った。

「ええ」私は同意した。「その通りよ。でも、彼を殺しても何も解決しない。もっと多くの人生を壊すだけ」

父の肩がわずかに落ち、重いため息とともに金庫を閉めた。「じゃあ、お前はどうしたいんだ?」

「離婚したい」その言葉は、自分でも驚くほど落ち着いて口から出た。「そして、私のやり方でけりをつける」

居間に戻り、私はすべてを打ち明けた。

「五日後」私は言った。「五日後は、私たちの最初の結婚記念日。その日を使って、この結婚を終わらせるわ」

「どうやって?」と母が尋ねた。

昨日から、頭の中でひとつの計画が形になりつつあった。「隆志が本当はどんな人間なのか、みんなに、ありのままを見てもらうつもりよ。家族ぐるみの友人たち、取引先、私たちのことを完璧な夫婦だと思っている人たち全員に」

父が身を乗り出す。その目には、怒りの代わりに興味が浮かんでいた。「続けろ」

「もう結婚記念パーティーの計画は全部立ててあるの。会場も、招待客リストも、何もかも。詳細はすべて決まってる」私は震える息を吸い込んだ。「結婚を祝う代わりに、それを暴露する舞台にする」

「その後は?」母の声は優しかったが、心配の色がにじんでいた。

「私はここを離れる。指導教授が、ドイツの研究機関への招聘をずっと誘ってくれていたの。一年か二年の任期。隆志と離れたくなかったから、断るつもりだった」私は苦々しく笑った。「今となっては、完璧な逃げ場所みたい」

「必要なものは何でも手伝う」父が即座に言った。「証拠でも、弁護士でも、何でもだ」

「実は」と私は言った。「お願いがあるの。記念パーティーの後、私が姿を消すのを手伝ってほしい。離婚手続きの間、隆志に見つけられたり、嫌がらせをされたりしたくないの」

「任せなさい」母が毅然と言った。「ここは今でもあなたの家よ、あなた。私たちが守るわ」

ここ数日で初めて、まともに息ができた気がした。

その日の午前中は、子供時代の自分の部屋で過ごした。もっと無邪気だった頃の思い出に囲まれて。ピンク色の壁とぬいぐるみたちが、私が知ってしまったすべてのことの後では、非現実的に感じられた。

電話が鳴り、物思いにふけっていた私はびくりとした。画面には中村教授の名前が光っていた。

「美咲さん」訛りのある彼の声は温かかったが、心配そうだった。「君が研究チームへの参加を断る決心をしたと受け入れる前に、もう一度だけ電話しておきたくてね」

「実は、教授」と私は言った。「考えが変わりました。お申し出をお受けしたいと思います」

電話の向こうが沈黙した。それから、「本当かね? しかし、ご主人は? ご家族の計画は?」

「夫は……理解してくれるでしょう」嘘がすらすらと口をついて出た。「それに、時には自分の夢を追いかけることが、家族にとって一番良いことだってありますから」

「美咲さん、それは素晴らしいニュースだ!」彼の興奮が伝わってくるようだった。「本当にいいのかね? これはかなり大きな決断だよ」

「ええ、確かです。出発はいつになりますか?」

「来週の金曜日です。その日の夜、フランクフルト行きの便があります」

『完璧だ』。「準備しておきます」

教授との電話を切った後、私は家の顧問をしている法律事務所に電話をかけた。

「高橋さん? 美咲です。至急ご相談したいことが……はい、離婚についてです」

それから、親友の鈴木真理に電話した。彼女は二回目のコールで出た。

「美咲! ちょうどあなたのこと考えてたところ。中村教授のドイツの件、やっと返事した?」

「うん、したよ。行くことにした」

「えっ?」真理の声が一段高くなった。「でも、旦那さんはどうするの? あなた、愛しの隆志さんとそんなに長く離れていられないって思ってたのに」

「その頃には、元夫になってるから」

電話の向こうが完全に静まり返った。真理の頭が、私の言ったことを処理しようとしているのが聞こえるようだった。

「ごめん、今なんて言った?」

「聞こえた通りよ」

「美咲、怖いこと言わないでよ。一体どうなってるの? あなた、あの人に夢中じゃない。二人って……誰もが羨むような理想的なカップルじゃない。彼があなたを愛してることなんて、みんな知ってるのに」

「どうやら、他の人も愛してるみたい」

その言葉が彼女に浸透するまで、もう一瞬かかった。「……うそ。浮気されたの?」

「彼の義理の妹と」

「あの最低野郎!」真理の声が電話口で爆発した。「美咲、本当にごめんなさい。信じられない……神様、あなた、打ちのめされてるでしょう」

意外にも、私はその日一日で一番落ち着いていた。「そうよ。でも、怒ってもいる。そして、怒りは絶望より役に立つわ」

「いいわ」真理は激しい口調で言った。「その怒りを力に変えるのよ。あなたは彼よりずっといい人に値するんだから」

「わかってる。そして五日後には、他の皆にもそれをわからせてやる」

「五日後? 五日後に何があるの?」

「その時になれば分かるわ」私は顔に馴染まない笑みを浮かべて言った。「信じて。きっと忘れられないものになるから」

私は自分の部屋に戻り、壁にかかったカレンダーの前に立った。あと五日。五つの日付が、私を新しい人生から隔てていた。私は赤いペンを手に取り、その日付に丸をつけた。

その日は私たちの結婚記念日。そして同時に、私がすべてを終わらせる日だ。

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