第3章
私は西園寺愛理が嫌いだ。
彼女が現れる前、両親は私を愛してくれていたし、湊も私を守ってくれていた。
五歳の頃から湊を知っている。
隣の家の兄貴分で、昔から顔立ちは良かったけれど、性格はひねくれていて、まるで温もりのない石ころみたいだった。
けれどその石ころは、私が隣のクラスの男子にいじめられた時、迷わず殴り込みに行ってくれた。
「西園寺凛は俺が守る」
八歳の湊は口元の血を拭いながら、相手を睨みつけて言った。
「次あいつに手を出してみろ、ただじゃおかないぞ」
それ以来、私は彼の金魚のフンになった。
幼馴染、竹馬の友。
大人になって、結婚して、子供が生まれて、おじいちゃんおばあちゃんになるまで、ずっとこうしていられると思っていた。
けれど十六歳の年、愛理が現れた。
遠い親戚の孤児で、両親を亡くし、私の家に引き取られたのだ。
初めて会った時、彼女は白いワンピースを着て、怯えたように母の後ろに隠れていた。まるで驚いた小鹿のように。
「凛、この子は愛理。今日からあなたの妹よ」
母は優しく言った。
「譲ってあげるのよ、面倒を見てあげてね。わかった?」
あの時の私は知らなかった。その「譲る」という行為が、私の人生そのものを明け渡すことになるなんて。
愛理は人に好かれる術を心得ていた。
父が帰宅すればスリッパを出し、母が頭痛を訴えればマッサージをし、湊を尊敬の眼差しで見つめては「すごい」と褒めちぎる。
徐々に、家の中の風向きが変わっていった。
父は言った。
「愛理は本当に優しくて品がある、良家の子女らしい。凛とは大違いだ、あいつは一日中ギャーギャーうるさいし、可愛げがない」
母は言った。
「愛理はなんて気遣いができる子なんでしょう。テストで一位を取っても謙虚で。凛、あなたも見習いなさい。いつも恩知らずな態度ばかり取ってないで」
湊でさえ、愛理を見る目がどんどん優しくなっていった。
彼は進んで愛理の重い荷物を持ち、彼女が落ち込んでいれば根気強く慰めるようになった。
そして私は、誰からも疎まれる嫌われ者になった。
湊もまた、私を冷遇し続けるようになったのだ。
