第4章
私の魂は車の中に潜り込み、彼らと共に温泉谷へ向かっていた。
富岡正介がハンドルを握り、後部座席では隊員たちが雑談に興じている。
「愛理さんは本当に健気ですね」
富岡が感嘆したように言った。
「隊長を追って、東京での優雅な生活を捨てて、不自由な足を引きずってこんな山奥まで来るなんて」
「ああ、泣かせる話だよな」
若い隊員が相槌を打つ。
「隊長は優秀だし、愛理さんとお似合いですよ」
「なあ、隊長はいつ愛理さんにプロポーズするんですか?」
「もうすぐだろ、隊長だって愛理さんのこと大事にしてるし」
湊は助手席に座っていた。彼は振り返り、鋭い視線を飛ばした。
「いい加減にしろ。今はそんな話をしている場合か。俺たちは人を助けに行くんだぞ」
隊員たちは慌てて話題を変えた。
「そ、そうですね、愛理さんの救助が最優先です」
じゃあ、私は?
私は重要じゃないの?
たとえ私じゃなくても、瓦礫の下に埋まっているのが見ず知らずの他人だったとしても、重要じゃないと言うの?
レスキュー車は山道を疾走していたが、向かっているのは温泉谷の療養所ではなかった。
富岡は車を河川公園へと曲がらせた。
「方向が違うぞ」
湊が眉をひそめる。
「療養所へ行く道じゃない、すぐにUターンしろ!」
「前方の道路状況が悪いんで、迂回します」
富岡は言葉を濁した。
車は公園の芝生の脇に停まった。
目の前の光景に、全員が言葉を失った。
地震の後の瓦礫などどこにもない。危険などどこにもない。
緑の芝生の上には、赤いバラの花びらが敷き詰められている。色とりどりの風船が風に揺れ、川にかかる吊り橋にはピンクのリボンが飾られていた。
その中央に、愛理が車椅子に座っていた。精巧な白いレースのドレスを身にまとい、まるでおとぎ話の姫君のように美しく。
車を降りた湊の姿を認めると、愛理はすぐに目元を赤くし、涙を浮かべた。
「やっぱり私のこと大事に思ってくれてるのね、見捨てないって信じてたわ」
湊は大股で近づき、彼女の脚に貼られた絆創膏を一瞥した。
それが唯一の「怪我」だった。
「これが遭難か?」
湊は眉を吊り上げた。
「これが助けてくれと言った理由か?」
突然、クラッカーやビデオカメラを持った集団が物陰から飛び出してきた。
「サプライズ!」
「隊長へのサプライズプロポーズだ!」
彼らのチームの人間が笑いながら説明する。
「愛理さんが隊長に忘れられないプロポーズをしたいって言うから、それで……」
湊は猛然と振り返り、富岡を睨みつけた。
「お前もグルだったのか? 神居村の状況はどうなってる!」
富岡は気まずそうに湊の視線を避けた。
「村長の話じゃ大したことないって言ってたし、古い家屋が一つ潰れただけだろ。一応人は向かわせてる。それに、愛理さんはお前のために東京のすべてを捨てたんだぞ、その気持ちを無下にするなよ」
私は陽光の下に立ち、この茶番劇を見つめていた。
太陽が魂を焼き焦がし、あまりの痛みに足がすくむ。
私は三十キロ離れた瓦礫の下で、腰を砕かれ、血を流し尽くし、暗闇の中で絶望しながら死を待っていた。
それなのにここは、花、拍手、太陽、そして入念に計画された嘘に満ちている。
「瓦礫に潰されている時だって、こんなに痛くはなかったわ……」
私は独りごちた。
