第5章

愛理は涙を拭い、情熱的な瞳で湊を見つめた。

「湊くん、私が東京のすべてを捨ててここに来たのは、あなたのためよ。あの人のことは……もう一年以上連絡もないんだし、忘れるべきだわ。一緒になりましょう、私なら彼女よりもっとあなたを愛せる、あなたのことを理解できるもの」

彼女の言う「あの人」とは、私のことだ。

その言葉を聞いて、湊の身体が強張った。無意識に一歩後ずさる。

それを見た愛理は、突然車椅子の肘掛けに手をつき、ふらふらと立ち上がった。

「私の手で、指輪を嵌めてあげたいの……」

立ち上がった瞬間、膝が重さに耐えきれないかのように激しく震え、彼女は前へと倒れ込んだ。

「危ない!」

湊は反射的に手を伸ばし、彼女を受け止めた。

愛理はそのまま湊の胸に倒れ込み、彼の腰に強くしがみついた。

「転ばせないってわかってたわ。湊くん、愛してる」

「ヒューヒュー!」

「受け取れ! 受け取れ!」

周囲が囃し立て、隊員たちも一緒になって拍手を送り、大声で叫んだ。

「奥さん! 奥さん!」

歓声が空に響き渡り、遠くの神居川のせせらぎも、私の魂が砕け散る音もかき消していく。

私は芝生の上に座り込み、抱き合う二人の姿を見つめていた。

半年前の大雪の夜を思い出す。私は窓の外に立ち、二人がケーキの蝋燭を吹き消すのを見ていた。

あの時もそうだった。

私が努力すれば、待ち続ければ、彼はいつか振り向いてくれると思っていた。

結局のところ最初から最後まで、私の一人相撲だったのだ。

私の手が透け始め、指先から少しずつ空気に溶けていく。

魂のエネルギーが尽きようとしていた。

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