第1章
ランチタイムなんて大嫌いだった。
トレイを持って学食を歩くのは、まるで地雷原を進むようなものだった――一歩間違えれば、即アウト。鼻からずり落ちてくる分厚い眼鏡を押し上げながら、私はキラキラした応援部の人たちを避けようと必死だった。
でも、私の視線は、どうしてもあのテーブル――秋山亮太のテーブルへと吸い寄せられてしまう。幼馴染で、私が三年間も片想いしている相手。
陽の光を浴びて完璧な横顔を見せる彼は、十年前に裏庭で自転車の乗り方を教えてくれた時と変わらず、息をのむほど格好よかった。唯一違うのは、今の彼の周りには綺麗な女の子たちが群がっていて、私には……私には、彼の元へ歩み寄る勇気すらないということ。
彼が花形のサッカー部のエースになって、体育会系サークル『アルファ』に入ってから、すべてが変わってしまった。かつて私を守ってくれて、一緒に遊んでくれたあの男の子は、もうどこにもいなかった。
「あらあら、これはこれは、私たちの『ガリ勉ガネ』さんじゃない！」书呆子
最悪。松田麻衣――学園の女王様で、女子学生クラブの会長で、そして私の天敵。甲高い声に、胃がキリキリと痛む。
彼女たちを避けようとしたけれど、応援部の人たちは私の前に壁を作って立ちはだかった。ピンクと白のユニフォーム、つやつやの唇、完璧なポニーテール。それに比べて私は？ ぶかぶかの灰色のセーターに、べたついた髪、そしてこのひどい分厚い眼鏡。
「すみません……」周りの喧騒にかき消されるような、か細い声で呟いた。
麻衣はわざとらしく立ち上がると、完璧なブロンドの髪をかきあげるふりをした。「あら、桃井茉莉じゃない！ 全然気づかなかったわ。昨日の夜もまた図書館でお泊り？ 本当に〝勉強熱心〟なのね」
聞こえは褒め言葉のようだけど、その瞳は純粋な毒をたたえていた。
彼女たちの脇をすり抜けようとした、その時――
麻衣が、不意に足を突き出してきた。
「きゃっ！」
私の持っていたトレイが宙を舞い、スパゲッティが踊り、ジュースがそこら中に飛び散った。私は派手な音を立てて床に倒れ込み、全身が食べ物まみれになった。
学食全体が一瞬シンと静まり返り、次の瞬間、耳をつんざくような笑い声の渦に包まれた。
「やだ、茉莉！ 大丈夫？ ごめんなさい、全然見えなかったの！ まるで幽霊みたいに歩き回るの、やめてくれない？ そりゃ誰も気づかないわけよね」
「マジで存在感ゼロじゃん！」と、もう一人の応援部、芦田沙織がけたたましく笑う。
「歩く災害じゃん！」と誰かが叫んだ。
あちこちでスマホのカメラが光り始める――写真を撮られている。私は床に膝をつき、食べ物を拾いながら震えていた。涙で眼鏡が曇る。髪には麺が絡みつき、セーターはジュースでべとべとだ。
その時、彼が見えた。
亮太が、ほんの数メートル先に座っていた。彼の茶色い瞳が、一瞬だけ私を捉え、そして……
すっと逸らされた。
「なあ、近藤誠。さっきの話なんだっけ？ 来週の練習スケジュールのことか？」彼はチームメイトに、まるで何もなかったかのように話しかけた。
まるで、私が存在しないかのように。
私の心は、完全に砕け散った。本当に、粉々に。
十年前の記憶が、不意に蘇る――
『怖がらなくていいよ、茉莉。俺がついてる』八歳の亮太が、私の自転車をしっかりと支えてくれていた。『絶対に転ばせないから。俺は茉莉のナイトだろ？ いつでも守ってやるから』
『ほんと？』
『当たり前だろ！ 俺たち、ずっと友達だからな』
ずっと友達。なんて馬鹿げた約束だったんだろう。
彼は本当に、私たちの間にあったものを、もう何とも思っていないの？
ううん、これで終わりだなんて信じたくない！ かつて私を必ず守ると約束してくれたあの男の子が、すべてを忘れてしまったはずがない。きっと何か事情があるんだ。何かを恐れているのかも。もしかしたら……。
午前二時。私の寮の机の上は、お菓子作りの道具で埋め尽くされていた。生クリーム、卵、小麦粉、そして実家から持ってきた秘伝のレシピ――子供の頃から亮太が大好きだった、手作りチョコレートケーキの。
「ちょっと、茉莉」ルームメイトの佐藤恵美が、目をこすりながら寝室から出てきた。「もう朝の二時よ！ 何してるの？」
「明日は亮太の誕生日なの」私は慎重にケーキの層を重ねながら言った。「これは、昔、私たちのお母さんが一緒に作ってくれたレシピ。彼の大好物なの。きっと、あの楽しかった頃を思い出してくれるわ」
恵美は心配そうな顔で私の隣に座った。「ねえ、彼がもう気にかけてると思う？ 今日の学食でのことだって……」
「あれは別よ」私は彼女の言葉を遮り、ケーキのトップにイチゴを飾りつけながら言った。「みんなの前だから、ああいう態度しか取れなかっただけ。でも、彼はまだ私を守ってくれてる。この間、麻衣が私のノートを捨てようとした時、亮太が咳払いしたら彼女はやめたでしょ？」
「茉莉……」
「きっと喜んでくれるわ」私は鏡に映る疲れ切った自分に言い聞かせた。「私たちの友情を、絶対に思い出してくれるはず」
三段重ねの手作りチョコレートケーキは、ライトの下で完璧に見えた。白いクリームのフロスティングに、赤いイチゴで綴られた「Happy Birthday 亮太」の文字。子供の頃に一緒に過ごした、あの美しい誕生日のように。
彼が忘れるはずがない。でしょう？
＊ ＊ ＊
氷のように冷たい雨が、顔を叩きつけた。私はアルファの部室の外に立ち、ケーキの箱を抱えながら、明かりの灯る窓越しにパーティーの様子を眺めていた。
亮太はソファで大勢の同好会の友達と座り、みんなビールを手にしている。音楽がうるさくて耳が痛いほどだったが、不意に自分の名前が聞こえた。
「なあ、あの茉莉って女、マジでイタいよな」誠が笑った。「今日の学食で床にぶちまけたの見て、マジで笑い死ぬかと思ったぜ」
血が凍りついた。私は窓の外に隠れ、顔に雨が流れ落ちるのも構わず、身動き一つできなかった。
亮太はビールを一口飲むと、軽蔑的な笑みを口元に浮かべた。「本当にな。俺の後をついて回る子犬みたいでさ。宿題やってくれたり、コーヒー買ってきたり――マジで痛々しい」
「だったら、はっきりうせろって言えばいいじゃん？」と別の声がした。
「母さんがさ、隣同士なんだから面倒見てやれってうるさくて」亮太は肩をすくめた。「でも本気で、こっちは慈善事業やってるわけじゃねえんだよ。あいつ、まだ俺たちが子供のままだとでも思ってんのかね？ 完全な勘違いだろ」
部屋は、さらに大きな笑い声に包まれた。
「正直さ、まともな男があいつのこと見るわけないだろ？」亮太は続けた。その一言一言が、ナイフのように私の心臓を突き刺す。「分厚い眼鏡に、ダサい服、まともに声も出せねえし。麻衣の言う通りだよ――まるで幽霊だ」
「じゃあ、なんでまだあいつに手伝わせてるんだよ？」
「いいじゃん、タダなんだから」亮太は得意げに笑った。「あいつが俺の召使いになりたいって言うんだから、断る理由もないだろ？」
世界がぐらぐらと揺れるのを感じた。雨と涙が混じり合って、何が顔を流れているのかも分からなかった。
私の努力も、気遣いも、愛情も……彼にとっては、ただの冗談だったんだ。
次の瞬間、私はケーキの箱を乱暴に引き裂いた。
完璧だった手作りチョコレートケーキが、箱の中で静かに横たわっていた。イチゴの文字が、雨で滲み始めている。十五年の友情、三年の片想い、数えきれない夜の空想を象徴する三つの層。
ふざけるな！
私は一番上の層を掴むと、そのままゴミ箱に叩きつけた。クリームがそこら中に飛び散る。
二番目の層！ 力任せに投げ捨てた！
三番目の層！ 持ち上げて、思い切り叩きつけた！
「召使い？」私は雨の夜に向かって叫んだ。「召使いが欲しいってわけ？」
ケーキの残骸が、粉々になった私の心と同じように、ゴミと混じり合う。私はそれを力いっぱい踏みつけた。クリームがすねに飛び散る。
「私って、あんたにとってそういう存在だったの？ ただの下僕？」
雨がその惨状を洗い流していく。私の愚かな幻想も、すべて一緒に。
私は全身を震わせながら立ち上がり、明かりの灯る部室の窓を、最後にもう一度だけ見つめた。
「いいわ。私に消えてほしいんでしょ？ 望み通りにしてあげる」
