第3章
翌朝、ヴィンセントは早々にセリーナを家に連れ帰った。
私は客室の窓辺に立ち、彼が彼女を車から降ろす様子を見下ろしていた。腰に手を添え、まるで壊れやすい宝物でも扱うかのような慎重な手つき。昨夜、私を壁に押し付け、振り返りもせず去っていった男が、今は別の女の風に乱れた髪を優しく直している。
それもそうか。彼女はそもそも大した怪我などしていない。病院に長居できるはずもなかったのだ。
それからの日々、私はほとんど階下に降りなかった。降りたくないのではなく、降るのが怖かったのだ。リビングを通るたび、あの二人の姿を目にしてしまうから。
ソファで書類に目を通すヴィンセントと、その傍らに身を寄せるセリーナ。彼は慣れた手つきで彼女にブランケットを掛ける。
朝食のテーブルで、セリーナの手が届かないベーコンを取り分けてやるヴィンセント。
庭園を散歩しながら、彼女の腕を支えるヴィンセント。二人は何かを囁き合い、そして声を上げて笑う。
その笑い声は階段を這い上がり、閉ざされたドアの隙間から侵入して、空っぽの客室に反響する。その一つひとつが、私にこう告げているようだった。「お前は余計者だ」「お前の居場所はここにはない」と。
別に構わない、と私は自分に言い聞かせる。どうせあと三日で、すべて終わるのだから。
彼らの茶番を見る必要も、あの笑い声を聞く必要も、この家族の一員であるふりをする必要もなくなる。
三日。あと三日だけ耐えればいい。
翌日の午後、ヴィンセントの母が私の部屋のドアを叩いた。
彼女の手にはファイルが握られていた。
「離婚協議書よ」彼女は単刀直入に切り出し、ファイルをベッドの上に放った。「ヴィンセントには適当な理由をつけてサインさせたわ。あとはあなたが署名するだけ」
ファイルを開く。白地に黒い文字で、条項の一つひとつが明記されていた。財産分与、債務の区分、双方の権利と義務。最下部にはヴィンセントの署名がある。走り書きのような筆跡は、彼が上の空だったことを物語っていた。
おそらく彼は、またいつもの会社の契約書だと思ったのだろう。あるいは内容など見ていないのかもしれない。見ていたとしても、その頭の中はセリーナや、これから生まれてくる子供のことで一杯だったに違いない。
私はペンを執った。
三年の結婚生活が、この数枚の紙切れに凝縮されている。彼のために受けた銃弾も、失った母親になる機会も、耐え忍んだ孤独な夜の数々も、すべては冷淡な法律用語へと簡略化されていた。
署名欄に自分の名前を記す。
ヴィンセントの母は協議書を受け取ると、入念に確認してから満足げに頷いた。
「何にせよ、あなたが以前、息子の命を救ったのは事実だわ」彼女の声には、これまで聞いたことのない柔らかさが混じっていた。「私から追い出すような真似はしたくなかった。あなたが自分で決心してくれてよかったわ」
彼女は一枚の航空券を取り出した。「明日の夜の便よ。私以外、誰もあなたの行き先を知ることはない」
チケットを受け取った瞬間、ドアが勢いよく開いた。
ヴィンセントが入り口に立ち、私と母を交互に見比べる。「母さん、どうしてここに?」
彼の母は素早くファイルを鞄に押し込んだ。
「イザベラに、別荘を出る件について相談していたのよ」彼女は適当な理由をでっち上げた。「こんな広い家に一人で住むのは不便でしょう。外のマンションに移ったほうがいいと思って」
ヴィンセントの顔色が変わる。「なんだって?」
彼は私を見た。その瞳には複雑な感情が渦巻いている。罪悪感、不安、そして私には読み取れない何か。
「本当なのか?」
私は微笑んだ。「ええ、本当よ。そのほうがあなたにとっても私にとってもいいわ。あなたは心置きなくセリーナの世話ができるし、私もあなたたちが仲睦まじくするのを見せつけられずに済むもの」
「すまない……」彼は消え入りそうな声で言った。「俺は、そんなつもりじゃ……」
その時、セリーナが姿を現した。ドア枠に手をかけ、もう一方の手でお腹を庇っている。
「ヴィンセント、どうしたの? 大きな声が聞こえたけど……」部屋にいる三人を見て、彼女は計算された驚きの表情を浮かべた。「あら、イザベラ、出て行かれるの?」
そして、いつもの常套句が続く。「私のせいね。もし嫌なら、私が出て行くの。この家の奥さんはイザベラなのだから……」
「結構よ」私は彼女の言葉を遮った。「私が出て行くわ。それが誰にとっても一番いいことだから」
ヴィンセントの母がセリーナを連れて去った後、部屋には私たち二人だけが残された。
私は荷造りを始めた。三年の生活の痕跡は、二つのスーツケースに収めてもお釣りがくるほどだった。
「嫌なら、母さんに言ってもいいんだぞ」ヴィンセントは入り口で私の背中を見つめながら言った。「無理に……」
「私が出て行きたいの」
「なら、別の別荘へ送ろう」彼は言った。「セリーナが子供を産んだら、また迎えに行く」
セリーナが子供を産んだら。
私は心の中で嘲笑した。残念だけど、その日は来ないわ。このまま私が移り住んだとしても、完全に忘れ去られるのがオチだ。迎えに来るなんて、夢物語にも程がある。
車が別荘地を抜ける頃には、すでに日は落ちていた。窓の外を飛ぶように過ぎ去る街並みを眺めながら、私は突然切り出した。「もしある日、私がここからいなくなったら、あなたはどう思う?」
ヴィンセントは激しくブレーキを踏み、車を路肩に停めた。「どういう意味だ?」
私は彼の方を向いた。「見ていればわかるわ。あなたはセリーナを愛しているし、あの子のことも愛している。私には、あなたが望むものを与えられない。このまま妻の座に居座り続けるより、私たちは……」
「ありえない!」彼はほとんど怒鳴るように言った。「俺が愛しているのはお前だけだ!」
彼は大きく息を吸い、努めて冷静さを取り戻そうとした。「明日の夜、ホテルを予約した。二人きりだ。信じてくれ、イザベラ。俺の愛する人は、お前ただ一人なんだ」
私は何も答えず、再び窓の外に視線を戻した。墨を流したような濃密な夜の闇が、すべての光を飲み込んでいた。
翌日の夜、ヴィンセントは時間通りに迎えに来た。
新調したスーツに身を包み、助手席には白い薔薇の花束が置かれている。
「君のために用意したんだ」彼の瞳は期待に輝いていた。
私は黙って花を受け取った。
向かったのは市中心部にあるホテルの最上階、フレンチレストランだった。
だが、エレベーターの扉が開いた瞬間、そこにいるはずのない人物が目に飛び込んできた。
レストランの入り口にあるソファにセリーナが座っていたのだ。私たちを見つけるなり、彼女は驚きと喜びの入り混じった笑顔を見せた。「ヴィンセント! やっぱりここだったのね!」
私は薄く笑い、ヴィンセントを振り返った。「二人きりじゃなかったの?」
ヴィンセントも呆然としていた。「どうしてここに? 家で休んでいるように言ったはずだろ?」
「サプライズをしたかったの」セリーナは立ち上がり、片手でお腹を庇う仕草をした。「それに今日は体調も良かったし、少し外を歩きたくて。……怒る?」
私はヴィンセントを見つめた。彼の顔に浮かんだ驚愕が徐々に諦めへと変わり、やがて妥協へと落ち着いていく様を。
「いいわ」
まるで今日の天気を話題にするかのような平坦な声で、私は言った。
「わざわざ帰ることもないでしょう。一緒に食事をしましょうか」
