第4章

 レストランの照明は温もりを帯び、クリスタルグラスの中でキャンドルの炎が揺らめいている。私は向かいの空席を見つめながら、三年前、初めて二人でここを訪れた時のことを思い出していた。彼は言ったのだ。「ここは俺たちだけの、特別な場所になる」と。

 セリーナの声が、私の追憶を断ち切った。

「あっ……」

 突然腹部を押さえ、彼女の顔色が瞬く間に蒼白へと変わる。

 ヴィンセントが即座に立ち上がり、彼女の元へ駆け寄った。「どうした? どこか痛むのか?」

「お腹が……」セリーナは弱々しく呟き、視線をテーブルに落とす。「この料理、生の魚介が入っていたみたいで……妊婦は駄目なのに……赤ちゃん……赤ちゃんに何かあったら……」

 彼の手が彼女の肩に回される。その仕草には、痛いほど見覚えがあった。かつて私が些細な怪我で顔をしかめた時、彼は幾度となくそうして私を支えてくれたものだ。

「病院へ行くぞ」ヴィンセントの声が張り詰める。

 私は自分の声が遠くから響くのを聞いた。「そんなに深刻そうには見えないけれど……」

 だが、彼は既にセリーナを横抱きにしていた。彼女の腕が彼の首に絡みつき、頭が胸に預けられる。

「すまない」ようやく私に向けられた視線。そこにあるのは謝罪と、それ以上の苛立ち。「次は必ず、埋め合わせをする」

 次。

 いつだって、次だ。

 五年前の、あの雨の夜が脳裏をよぎる。自宅で指を少し切ってしまい、血が床に滴った時のこと。彼は進行中だった重要な商談を放り出し、信号を無視して車を飛ばし、戻ってきてくれた。私を抱えて病院に駆け込んだ時、彼のシャツは私の血で真っ赤に染まっていた。

 医者は「ただの切り傷だ、包帯を巻けば済む」と言ったけれど。

 それでも彼は病室のベッドサイドに一晩中座り込み、私の手を握りしめて言ったのだ。「君の指一本は、どんなビジネスよりも重要だ。俺の世界で、君は永遠に最優先なんだ」と。

 今のこの世界において、私は二番目ですらないというのに。

 ヴィンセントはセリーナを抱いたまま歩き出す。入り口で一度だけ振り返り、唇を動かした。何かを言いかけたように見えた。

 だが結局、言葉は音にならず、彼は扉の向こうへと消えていった。

 私は席に取り残され、テーブルに並ぶ三人分の、手の込んだディナーを見つめる。

 これで何度目だろうか。

 もう数え切れない。けれど分かっているのは、その度に彼が彼女を選んだという事実。

 そして私はその度、永遠に来ることのない「次」を待ち続けてきた。

 給仕が恐る恐る近づいてくる。「お客様、何か……」

「いいえ」私はナイフとフォークを手に取る。「向かいの料理を下げてちょうだい」

 彼は一瞬呆気にとられたが、すぐに指示に従った。

 ステーキにナイフを入れると、赤い肉汁が滲み出る。一口ずつ、時間をかけて口に運ぶ。この三年の約束の一つ一つ、嘘の一言一句を咀嚼するように。

 周囲は恋人たちの囁きと笑い声に満ちている。私のテーブルだけが、孤島のように静まり返っていた。

 最後の一切れを飲み込むと、私は携帯電話を取り出した。

 コールが三回鳴り、彼女が出る。

「最後の願いがあります」

 ヴィンセントの母親は数秒沈黙した。「内容は?」

「彼の中で、私を完全に『死んだこと』にしていただきたいのです」

「どういう意味だ?」

「手段は問いません」私は立ち上がり、出口へと向かう。「ただ覚えていてください。今夜から、私はもう存在しない人間になるのだと」

 彼女の声が真剣味を帯びる。「本気なのね?」

「これほど確信を持ったことはありません」

 ホテルのエントランスを出た瞬間、冷たい風が頬を打つ。

 私は夜の闇へと足を踏み出し、一度も振り返らなかった。

 電話の向こうで、彼女の最後の言葉が聞こえた。「分かったわ。手配しましょう」

 病院の廊下。白々しく刺すような蛍光灯の光。

 ヴィンセントはVIP病室の前を行ったり来たりしながら、何度も携帯電話を確認していた。既に二時間が経過している。

 ようやくドアが開き、マスクを外しながら医師が出てきた。

「処置が早かったので、大事には至りませんよ」医師の口調は軽やかだ。「妊娠中は避けた方がいい食事をしたせいで、胃腸が少し荒れただけです。一晩休めば良くなるでしょう。赤ちゃんも無事です」

 ヴィンセントは安堵の息を吐き、病室へ入る。

 セリーナはベッドに横たわっていた。顔色はまだ優れない。彼を見ると、力なく微笑んだ。「ごめんなさい、また心配かけて」

「馬鹿なことを言うな」ヴィンセントはベッドの端に腰を下ろす。

「イザベラ……」セリーナは唇を噛む。「怒ってるかしら? 今日は二人の記念日だったのに……全部、私のせいね」

「心配するな」ヴィンセントは言った。「彼女なら理解してくれる。俺から説明しておくから」

 セリーナは頷き、目を閉じた。すぐに寝息が聞こえ始める。

 その寝顔を見つめながら、ヴィンセントはふとイザベラのことを思い出した。

 かつて彼女が病気だった時も、こうして弱々しくベッドに横たわり、彼は一晩中付き添ったものだ。だが、あの時彼女のそばにいたのは愛ゆえだった。今、セリーナのそばにいるのは何のためだ?

 責任? 家門? それとも、認めたくない「逃避」なのか?

 時計を見ると、既に午前一時を回っている。イザベラは帰宅しただろうか? それとも、あのホテルで馬鹿正直に自分を待っているのだろうか。電話をすべきか。

 いや、明日にしよう。まずは彼女の頭を冷やさせるべきだ。

 ヴィンセントは立ち上がり、窓際に移動してアシスタントに電話をかけた。

「ホテルへ行って、イザベラを連れ戻せ」

「了解いたしました」

 通話を切り、煙草に火をつける。窓の外では都市がまだ眠らず、闇の中でネオンが瞬いている。

 どれほどの時間が過ぎただろうか。手の中の煙草はとっくに燃え尽きていた。我に返り、携帯電話を手に取った瞬間、着信音が鳴り響いた。アシスタントからだ。

「ボス……」アシスタントの声が震えている。「大変です!」

「どうした?」

「あのホテルが……爆破されました!」

 悲鳴に近い叫びだった。「今は瓦礫の山です! 至る所で火の手が!」

 ヴィンセントの指から煙草が滑り落ちる。

「……なんだと?」

「敵対組織の仕業かと! ボスの動きを事前に察知し、爆弾を仕掛けていたようです!」アシスタントの呼吸は荒い。「我々の部隊が瓦礫の中を捜索していますが、現状では……奥様は、恐らく……」

前のチャプター
次のチャプター