第6章

 あの二つの指輪は、ずっと彼のポケットの中にあった。

 イザベラが去ってからの数ヶ月、ヴィンセントはあの別荘から一歩も出ようとしなかった。セリーナや母から何度か伝言が届いたが、すべて黙殺した。自分でも何を待っているのか判然としない。ただ、彼女が完全に消え失せてはいないと感じられる場所が、必要だったのかもしれない。

 ある深夜のことだ。

 セリーナが玄関に現れたとき、彼は顔を上げようともしなかった。彼女は片手で腹を庇うようにして敷居に立ち、ヴィンセントがこれまで幾度となく目にしてきた、「媚びを含んだ哀れみ」の表情を顔に貼り付けていた。

「いつまでもこんな状態でいられないわ」彼女は声を潜...

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