第8章

美智視点

スマホの画面を見つめた。午前二時十七分。

こんな時間に電話をかけるのが非常識なことくらい、わかっている。けれど、礼儀とは尽くすべき相手に尽くすもの。そして水原梨乃は、断じてその相手ではなかった。

一息ついて、彼女の番号をダイヤルする。

三度の呼び出し音のあと、彼女が出た。声には眠気と警戒心が混じっている。「もしもし?」

「里崎美智です」私は名乗った。「真の、妻です」

電話の向こうで衣擦れの音がした。ベッドから起き上がったのだろう。「番号を間違えていらっしゃるんじゃ.......」

「無駄よ、梨乃」私は彼女の言葉を遮った。「あなたが誰か、あなたと真が何を企んで...

ログインして続きを読む