第1章
私の番いの儀の前夜、双子の妹と私は、はぐれ者にさらわれた。
アルファである婚約者と両親は、領地の財を根こそぎ差し出したのに、買い戻したのは妹エララの命だけだった。
妹が無事に戻るや否や、エララは何事もなかったかのように私の立場へ滑り込み、自分が彼のルナになるための番いの儀式を行うのだと称して、私の儀式を奪った。
一方の私は、はぐれ者の集落で腐るように捨て置かれ、狼毒草を塗り込んだ刃で内なる狼の狼核を乱暴に抉り取られた。
腐肉みたいに荒野へ放り投げられ、変身する力も子を孕む力も奪われた私は、三日月群れ最大の恥さらしになった。
群れに見捨てられた私の前に、黒曜石群れのアルファで幼なじみのサイラスが現れた。彼は評議会の怒りを押し切り、月の神の御名のもと、公衆の面前で私に番いの印を刻み――私を何よりも大切な宝物のように庇い、かくまってくれた。
けれど今、私たちが結ばれて三年目。私は彼の書斎で、半ば封印されたままの記憶の水晶を誤って倒してしまった。
水晶は隠されていた闇の魔術儀式を空中に投影し、あの誘拐の嘘を一瞬で粉々に引き裂いた。
投影の中で、サイラスは妹の手を握り、吐き気のするほどの献身に満ちた目で見つめていた。
「怖がらないで、エララ。アリアの双子の狼核なら、相性は完璧だ。これがあれば、お前は最強のアルファ血統の子を安全に宿せる」
次の瞬間、サイラスは目隠しされ、縛られた私の身体へ近づいた。
慈悲も、痛み止めも、何ひとつない。彼は自分の手で私の狼核を抉り取り、私の引き裂かれるような遠吠えを、無理やり掻き消していった。
幻の痛みが身体を貫いた。砕けた内なる狼がくうんと鳴き、番の絆が嫌悪のあまり反射的に引いてしまう。
私の人生を壊したあのはぐれ狼の襲撃は……最初から最後まで、サイラス自身が緻密に仕組んだ屠殺場だったのだ!
すでに狼核を奪っておきながら、なぜ私と番いの絆を結んだ? なぜ闇の中で唯一の救い手を演じた?
内なる狼が完全に壊れそうになった、そのとき。水晶に残った魔力がうねり、病室の半開きの引き出しへ弾けるように走った。
中で固定されていないリンクストーンが赤く燃え、群れの専属医との生きた連絡を、いきなり拾い上げた。
「サイラス様! 今月アリア様から採った純血の狼核が……彼女の致死限界を越え始めています!」
専属医の声は恐怖で震えている。「サイラス様はもう彼女の狼核を抉り取ったはずです。それなのに今度は『月の神の祝福』なんて名目で毎月血を抜いて……このまま搾り取れば、彼女は死にます!」
リンクストーンが震え、サイラスの冷酷な返答が響いた。
「俺が長老たちに逆らって番いの印を刻んだ理由は一つだ。アリアをこの領域に永遠に縛りつけるため。あれはエララの身体が移植を拒絶しないようにする血の器にすぎない」
彼は少し間を置き、ぞっとするほど平然と言った。「それに、本当に欲しい女に番いの印を刻めない以上、同じ顔が俺の執着を満たすには十分だ」
専属医の慄きなど意にも介さず、彼は氷のように硬い命令を下した。
「話は終わりだ。エララはいつ産気づいてもおかしくない。今がいちばん、アルファ純血の加護が必要な時期だ。儀式陣を用意しろ。明日、アリアを連れていってまた抽出する」
「正気ですか!? 前回の採血からまだ二日も経っていません! 本当に番いが死んでも構わないんですか!?」
専属医は必死に精神リンクを強め、止めようとした。だがサイラスは一切のためらいもなく、残酷に接続を断ち切った。
沈黙が部屋を支配する。
首筋の番いの印は毒みたいに灼けたが、涙はもう枯れていた。
身代わりとして弄び、子を持つ力を奪い、最後の一滴まで血を抜いて――エララと、別の男の子を養うために。
なんて吐き気のする、深い愛のかたち。
その思考が胸の奥に沈みきる前に、階下から重たい玄関の音が響いた。次の瞬間、杉の木を思わせる攻撃的な匂いが、広間いっぱいに流れ込んでくる。
帰ってきた。
紙みたいに青白い顔のまま、私は記憶の水晶を手探りで引き出しへ押し戻した。
浴室へ滑り込み、凍える水を顔に浴びせて荒い呼吸を無理やり抑え込み、そして自分を叱りつけるようにして階下へ向かった。
だが、刃みたいに鋭いアルファの本能が、私の目の奥に残ったかすかな赤みを見逃さなかった。
サイラスは大股で近づき、私を抱き上げてソファまで運ぶ。その掌が、空洞になった下腹部――かつて私の狼核があった場所にそっと置かれた。
「アリア、どうして泣いていたんだ?」彼は完璧な憐憫の仮面を被ったまま、優しく囁く。「はぐれ者にやられた古傷が、また疼いたのか?」
答えない私に、彼は髪へ口づける。「痛みを番いの印に流してくれ。俺にも感じさせろ。一人で抱え込むな。内なる狼が、悲しみで死んでしまう」
瞬きひとつせず罪をはぐれ者のせいにするその口ぶりを聞いた瞬間、胃の奥がぐるりとひっくり返った。
ちょうどそのとき、数人のオメガたちが頭を垂れて入ってきて、希少な治癒薬草の籠と、血の気の濃い新鮮な獲物の極上肉を運び込んだ。
毎月、あの「祝福」のあとには必ず、サイラスがこんな豪奢な饗宴を用意した。
私はずっと、それを疑いようのない献身だと思っていた。だが真実は違う……彼は「祝福」を口実に私の血を搾り取り、そして家畜みたいに餌を与えて、エララのための尽きない純血の供給源を確保していただけだった。
魂を引き裂く震えを飲み込み、私は掠れた声で探りを入れた。「サイラス……今日は、もうしたくない。『祝福』が痛すぎるの。明日の儀式は……休めない?」
言い終える前に、息が詰まるほどのアルファの威圧が肺を押し潰し、しかし次の瞬間には彼はその剥き出しの暴力を引っ込めた。
彼は私の顎を持ち上げ、金の瞳に暗い光を走らせる。「駄目だ、アリア。お前は致命傷を負った。狼核がないお前を守るものはない。だから『浄化の祝福』は絶対に止められない」
身を屈め、額へ口づける。その声音だけは執着じみた献身に満ちていた。「お前が俺にとってどれほどの意味を持つか、分かっていないんだ。アリア。お前には、かすり傷ひとつ触れさせない。――お前が、俺にとってこんなにも重要なんだから」
昔の私なら、その言葉だけで泣けた。
甘い毒の底に張りついた骨の髄までの計算が見える今、胸に満ちたのは、凍えつくような絶望の冷たさだけだった。
サイラスが銀の椀を手に取った、そのときリンクストーンが震えた。仮面の外れた恍惚が彼の瞳に噴き上がり、呼吸がかすかに跳ねる。
「群れの診療所で急患だ。今すぐ出る。いい子にして、食べ終えて待っていろ」
玄関の扉がかちりと閉まった瞬間、張りつけた無表情が崩れ落ちた。私はあの忌まわしい食事を、そのまま屑籠へ叩き込んだ。
数時間が、霞の中を流れるように過ぎた。私は書斎で硬直したまま座り、あの記憶の水晶を封じ直そうとしていた……そのとき、不意に画面へ通知が浮かび上がった。
群れの私設ネットワークに載った、エララの最新の近況だった。
「ありがとう、サイラス。私の番の結界が混乱に落ちたとき、あなたが匿ってくれて。最上級の専属医で診療所を封鎖して……自分の命より私を優先してくれるアルファがいるなら、出産だって怖くない」
添付されていたのは写真。目を赤くしたサイラスが、生まれたばかりの子を胸に抱いている。そのか弱い首筋に寄り添うように、銀のアルファの紋章――黒曜石群れの、究極の権威を示す番の象徴が光っていた。
私は瞬きもせず、その写真を見つめた。こわばった指が引き出しの奥を探り当て、羊皮紙の巻物を弾いてしまう。
封印が解けた。人狼最高評議会の印が押された、永代血統盟約。
そこには黒々と書かれていた。サイラスは自らの意思で、領地と貴重な資源地の九割を信託に移し、取り消し不可能な贈与としてエララの子に譲り渡す、と。
私はひび割れた笑みを無理やり形にした。涙よりも苦しい笑みで、目尻に残った最後の一滴を拭う。
なるほど。これが、極限まで誰かを愛するアルファというものなのだ。私の婚約者を奪った妹に対してさえ、サイラスは群れを空っぽにしてでも与え尽くす。
だったら、サイラス……もう私を檻に閉じ込めておく必要も、この大恋愛ごっこを続ける必要もないでしょう。
あなたの究極の望みを叶えてあげる――あなたの世界から、永遠に消えてあげる。
