第3章

 一週間後、私とイザベラは揃って退院の日を迎えた。

 車椅子で運ばれる私。一方、半月前まで車椅子生活だったイザベラは今、陽光の下に立ち、まるで自由を取り戻した小鳥のようだった。

 潮風は骨身に染みるほど冷たく、薄い病衣姿の私は思わず身震いする。

 マルコがすぐさま着ていたカシミヤのコートを脱いだ。

 私を気遣ってくれたのかと思った次の瞬間、彼はそのコートをイザベラの肩に掛けた。

「外は風が強い。絶対に風邪を引かないようにね」

 彼はイザベラのコートのボタンを、一つひとつ丁寧に留めていく。

 母もごく自然に自分のマフラーを外し、イザベラの首に何重にも巻きつけた。

「これで寒くないわね」

 流産したばかりで、手術を終えたばかりの私の姿に――目を向ける者は誰一人としていなかった。

「お姉ちゃん、残念なお知らせ」

 彼女は車の中を指さし、悪びれる様子もなく首を傾げる。

「私の足が治ったから、お父さんがあの固定装置を邪魔で不格好だって言って、昨夜のうちに外させちゃったの。お姉ちゃんの車椅子、もう車に乗せられないわ」

 彼女越しに車内を覗き込んだ。

 かつて私のために改造された広々とした後部座席は跡形もなく消え去り、代わりに真新しいショッキングピンクのレザーシートが鎮座している――イザベラが一番好きな色だ。

 私を押していた看護師は進むことも退くこともできず、その場で凍りついていた。

「いやあ、忙しくてうっかり忘れていたよ!」

 大股で歩み寄ってきた父は、バタンと車のドアを閉め、私の視界を遮った。彼はしゃがみ込み、高価なカフリンクスを直しつつ、謝罪というよりは通告に近い口調で言った。

「エレナ、このところイザベラの手術で、お父さんは本当に忙しかったんだ。今日は悪いが、先に救急車で帰ってくれないか。数日中にマーカスに君の新しい車を手配させるから」

「買わなくていいわ、お父さん」

 私の声はひどく掠れていた。

「どうせ、もう使わないから」

 父は一瞬ぽかんとして、わずかに眉をひそめた。

「使わないってどういうことだ? エレナ、何が言いたい?」

 私が答えるより早く、マルコが歩み寄ってきた。彼の手のひらが私の頭頂部に置かれる。その馴染み深い温度が、今はただひどく吐き気を催させた。

「変なことを考えるな」

 彼の声は低く沈んでいた。

「君もすぐに回復する。そうすれば自然と車椅子なんて必要なくなるさ」

 彼は振り返って父を見た。二人は素早く視線を交わし、ある種の暗黙の了解に達したようだ。

「そうですよね、お父さん?」

 父はすぐに頷いた。

「ああ、もちろんだ」

 マルコが看護師から車椅子のハンドルを受け取り、動かそうとしたその時。イザベラが突然手を伸ばして彼のネクタイを引っ掛け、自分の方へ引き寄せた。

「マルコォ――」

 まだ幼い子供のように、彼女は語尾を甘く伸ばす。

「車椅子のことなんて放っておいて、私と一緒に乗ってよ。お父さんとお母さんだけじゃ退屈なの。マルコがお話ししてくれないと、私、息が詰まって死んじゃう」

 マルコは気まずそうに彼女の手を離そうとしながらも、無意識のうちに私の方をちらりと見た。

「わがままを言うな、イザベラ。エレナはまだ体が回復してないんだ――」

「行って」

 私は彼のその白々しい拒絶を遮った。

「どうせ、一人には慣れているから」

 私は二度と彼を見ることなく、自ら勢いよく車椅子を反転させ、長く待機していた救急車へと滑らせた。

 看護師が慌てて追いかけてきて、代わって押してくれる。車に乗り込む一瞬、救急車のリアウィンドウ越しに見えた光景――

 マルコが身をかがめ、大はしゃぎするイザベラをあのピンク色の後部座席に抱き抱えて乗せている。そして私の両親は傍らに立ち、慈愛と満足に満ちた笑顔を浮かべていた。

 まるであれこそが、真に完璧な家族の肖像であるかのように。

 車が発進した時、スマートフォンが震えた。マルコからのメッセージだ。

「イザベラはまだ衰弱していて、ご両親だけじゃ手に負えないから、俺が手伝わなきゃならないんだ。こういう時、君が一番物分かりがいいから、分かってくれるよな?」

「ええ、気にしないわ」

 どうせもう少しで、私はここからいなくなる。私がいなくなれば、あなたたちも気まずい思いをすることなく、心置きなくイザベラの世話だけを焼けるようになるのだから。

 家に到着し、目の前の見慣れた屋敷を眺めながら、私は心の中で苦笑した。

「エレナ……」

 看護師が私を車から降ろすのを手伝いながら、母が私の手を取った。

 彼女は銀のメダイを私の手のひらに押し込む。

 赤く縁取られた目で、彼女は私の手をきつく握りしめた。

「これを身につけておきなさい。聖母様があなたをお守りくださるわ。もう二度と危険な目には遭わないようにって」

「エレナ、早く受け取りなさい」

 父が横から口を挟む。

「それは君が意識不明だった時、母さんがわざわざモンレアーレ大聖堂まで行って祈願してきたものなんだぞ。司教様から直接祝福を受けたものだ」

 モンレアーレの聖母像が刻まれたメダイを俯いて見つめ、私は少しだけ胸を打たれた。

 ふと、十歳の頃を思い出した。高熱を出し、朦朧とする意識の中で、いつも一人の女性がベッドの傍らにひざまずいて私のために祈ってくれている夢を見た。後になって使用人から、それが母だったと聞かされたのだ。

「ありがとう」

 私はメダイを強く握りしめた。金属の縁が手のひらに食い込む。

「私はあなたの母親だもの。これくらい当然よ」

 母は微笑んだ。その笑顔には、一瞬だけ重荷を下ろしたような安堵の色が混じっていた。

 彼女は屋敷の方を振り返り、また私に向き直ると、何か言いたげに口ごもった。

「エレナ、実は一つお話が……」

「何かしら」

「イザベラは手術を終えたばかりで、体がとても弱っているの」

 母は伏し目がちになり、私の視線を避けながら、焦ったように言葉を継いだ。

「お医者様が特別におっしゃっていたのよ。二階にあるあなたの部屋が、この家で一番日当たりがいいって。たっぷりの陽光が傷口の治りを一番早めるからって……」

 彼女は言葉を切り、ご機嫌をとるような、引きつった笑みさえ浮かべた。

「あなたの荷物はもう、一階の奥のホールにある物置部屋に移してあるわ。でも安心して、お父さんが業者を呼んで内装をやり直させたから。一番分厚い絨毯とヒーターを入れたし、絶対に寒い思いなんてさせないから……」

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