第5章

 埃まみれの部屋の隅を、無意識にぼんやりと見つめていた。ポケットの中のスマートフォンが震えるまで。

 通話ボタンを押すと、電話の向こうからは短い一言だけが告げられた。

「手配した人間がそちらに着いた。君の合流を楽しみにしているよ」

「分かった」

 通話を切った直後、呼び鈴が鳴り響いた。

 ゆっくりと立ち上がり、この物置部屋に最後の視線を向ける——枯れた植物の入った植木鉢、積み重なった古い家具、そして部屋の隅に置かれたまま一度も開けられていないスーツケース。

 玄関に立ち、もう一度だけこの家を振り返った。

 扉の外には黒いスーツ姿の男が立っていた。四十代半ば、平凡な顔立ちに反して...

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