第2章
午前二時。ベッドに横たわり、天井を見つめている。幸男の「あなたは、もう俺の主治医じゃない」という言葉が、忌々しいイヤーワームのように頭の中で繰り返されている。
寝返りを打ちながら、無理にでも眠ろうと目を閉じる。だが、記憶が映画のワンシーンのように次々と蘇る。――二年前、初めて出会った日。クリニックのソファに腰掛けていた彼の姿を、今も鮮明に覚えている。
彼はまるで、爆発寸前の時限爆弾のようだった。
目を閉じると、記憶が洪水のように押し寄せてくる。
二年前、心療支援センター、午後三時。
「セラピストなんかいらねえんだよ!」幸男の声が治療室に爆発するように響き渡った。拳を固く握り、まるで檻の中の獣のようだ。
初診の患者としては、今までで一番怒りを露わにしていた。彼は座ろうともせず、問診票への記入も拒み、私と視線を合わせようとさえしなかった。
「じゃあ、あなたに必要なのは何?」私はメモ帳を置き、彼の目をまっすぐに見つめた。「悪夢の中で死に続けること?」
彼は凍りついた。ほとんどのセラピストなら、彼を落ち着かせるために穏やかなアプローチを取っただろう。だが、私は直接的な対決を選んだ。
「お前に俺の経験したことなんて分かりっこない」彼の声は低くなったが、敵意は消えていなかった。
「なら、話して」
その瞬間、私は彼の瞳の奥にある脆さを見た。それは怒りではなかった――恐怖だ。トラウマを再体験することへの恐怖、理解されたいという切実な渇望、そして他人を信じることへの恐怖。
あの時気づくべきだったのだ。彼が必要としていたのは、単なる専門的な助け以上のものだったと。
今思えば、私は最初から彼を他の患者とは違う扱いをしていた。他の患者には標準的な手順に従うのに、幸男に対しては、いつもそれ以上のことをしてあげたいと思っていた。
私は起き上がってデスクに向かい、引き出しからあの職業倫理ハンドブックを引っ張り出す。カーテンの隙間から月明かりが差し込み、そこに書かれた規則の条文がひどく冷酷なものに見える。
だが、私の思考はあれから半年後のあの午後に飛ぶ。
一年半前、クリニックの外のカフェ、午後五時。
「目の前で、チームの仲間が……」幸男はコーヒーカップを見つめたまま、声が震え始めた。「あの余震で……俺が……」
彼は言葉を止め、その目には涙が浮かんでいた。
彼が私に本当の意味で心を開いてくれたのは、それが初めてだった。六ヶ月の治療を経て、私たちはついに彼の心理的防御を打ち破ったのだ。
「幸男さんは、勇敢よ」私は手を伸ばし、そっと彼の手の甲に触れた。「これを話すには、とてつもない勇気が必要だったはずよ」
その接触が職業上の境界線を越えるものだと、わかっていた。しかし、あれほど苦しんでいる彼を前にして、私は距離を保つことができなかった。
その夜の九時、私はあらゆるルールを破って彼に電話をかけた。
「大丈夫? 今日、あんなに辛い経験を話してくれたから、心配になって」
電話の向こうで数秒の沈黙。それから、幸男が笑った――彼の心からの笑い声を初めて聞いた瞬間だった。
「医者って、時間外も患者のこと気にするもんなのか?」
「ええ、良い医者はね」私は嘘をついた。良い医者はそんなことはしない。職業上の境界線には、存在する理由があるのだ。
でも、あれは特別なケアにすぎないと、私はその時自分に言い聞かせた。
職業倫理ハンドブックを開くと、白黒の条文が私を嘲笑っているように思えた。
「セラピストは職業上の境界線を維持し、二重関係を避けなければならない」
「セラピストは、その専門的優位性を利用して個人的な関係を築くことは許されない」
私は、そのすべてを破っていた。
最悪だったのは、一年前のあのセッション。あの、忌まわしいハグだ。
一年前、クリニック治療室、午後四時。
幸男は重いパニック発作を起こしていた。呼吸は浅く速くなり、シャツは汗でぐっしょりと濡れ、椅子の上で震えていた。
「コントロールできない、映奈さん……またあの映像が……」彼の声はガラスのように砕け散っていた。
呼吸法を使うべきだった。職業的な距離を保つべきだった。リラクゼーション法で彼を導くべきだった。
だが、私はそうしなかった。
私は立ち上がり、彼に歩み寄り、その体を腕の中に包み込んだ。
「私がいるわ。あなたは安全よ」
腕の中で彼が震えているのを感じ、髪からシャンプーの微かな香りがした。
これは治療じゃない。その瞬間、はっきりと悟った。
これは……愛?
私の胸に押し付けられたまま、彼の呼吸は次第に落ち着いていった。私たちは、職業的には到底許されないであろう長い時間、ただ同じ姿勢でじっとしていた。
彼が落ち着きを取り戻した時、私を見上げた。
心臓が飛び出しそうになった。専門家としての達成感からではない。一人の女性としての、男性に対する最も原始的な庇護欲と、愛情からだった。
「もう、私は一体何をしてるんだ」私はハンドブックに向かって呟く。がらんとしたアパートに、私の鋭い声が響いた。
私は彼の弱った状態を利用した。専門家としての優位性を利用した。回復過程にある患者を私に依存させ、それを純粋に愛だと信じ込もうとした。
ナイトスタンドの上でスマートフォンが光る――深夜のニュース速報だ。手に取って時間を確認すると、午前二時四十七分。
幸男は今、何をしているんだろう? 彼はもう、私の感情の変化に気づいていたのだろうか?
もしかしたら、彼の「あなたは、もう俺の主治医じゃない」という言葉は、残酷な拒絶ではなく、私たち二人を守るためのものだったのかもしれない。もしかしたら、彼の方が私よりも、私たちの境界線がどこにあるべきかを理解していたのかもしれない。
この二年間での治療の進展は、一体どれだけが間違った土台の上に築かれたものだったのだろう?
家族面談で、彼の母親である真里亜さんが私に言った言葉を思い出す。「映奈先生、幸男が先生から受けた専門的な助けには、私たちは未来永劫感謝し続けます」。専門的な助け。彼女はその言葉を強調した。
たぶん、私以外の誰もが、私よりはっきりと見えていたのだ。
私はハンドブックを閉じ、ベッドへと戻る。外では、街の夜景がまだ煌々と輝いている――この街は決して眠らない。今夜の私のように。
幸男が回復した、それは事実だ。彼は社会に復帰し、仕事を見つけ、悪夢を見る回数も減り、パニック発作もコントロールできるようになった。しかし、その代償は何だった? 私の職業的誠実さ? 彼がセラピストに対して抱く信頼?
あるいは、私たちが本来築けたはずの、本当の関係?
だが、その考えが浮かんだ瞬間、私はそれを無理やり心の底に押し込める。本当の関係は、力の不均衡の上に築かれるものではない。ましてや、一人の痛みと、もう一人の職業的責任に支えられるものでもない。
決断を下さなければならない。
幸男はあの言葉で私たちの関係に一線を引いた。今度は、私が現実と向き合う番だ。
