第3章

月曜の朝。街はいつもの灰色の霧にまだ包まれており、私は心療支援センターへと足を踏み入れた。昨夜はほとんど眠れなかった。

私は普通を装おうと努めた。患者に告白して自滅した愚かな女ではなく、プロの心理士である、ごく普通の水野映奈を。

「おはよう、映奈さん」受付の百合子さんが私に手を振った。「少し疲れてるみたいね」

「昨日は少し残業で」私は無理に微笑み、足早に自分のオフィスへ向かった。

私の小さなオフィスは二階の廊下の突き当たりにあり、普段は私の聖域だった。

席に着いて考えをまとめようとした矢先、紗良さんがノックをして入ってきた。

鈴木紗良さんはセンターのベテラン心理士で、四十代。どんな職務上の不正行為でも嗅ぎつける経験の持ち主だ。彼女はファイルの束を抱え、いつもより険しい表情をしていた。

「映奈、少し話せる?」その口調は、悪い知らせを告げに来たかのようだった。

「はい、今時間あります」私は冷静を保とうと努めた。「どうしたんですか?」

紗良さんはドアを閉め、私の向かいの椅子に腰を下ろした。手にしたファイルを開くと、それが患者のカルテだとわかった。さらに悪いことに、それが幸男のものであることにも気づいてしまった。

「映奈、あなたの書いた小野寺幸男の治療記録、他の患者の三倍はあるわね」彼女は単刀直入に切り出し、その瞳で私をじっと見据えた。

心臓が早鐘を打ち始めた。「彼のケースは、より複雑でして……」

「彼がどんなコーヒーを好むかまで記録する必要があるほど複雑なの?」紗良さんはあるページをめくり、読み上げた。「『患者はブラックコーヒーを好む。砂糖は不要。本日、シナモンロールを持参したところ、非常に気に入った様子だった』」

顔が熱くなるのを感じた。「それは……治療的な環境を築く一環です。PTSDの患者にとって、信頼関係の構築は重要ですから」

「そうかしら?」紗良さんは別のページをめくった。「じゃあこれは?『患者はジャズが好きだと話していた。特に渡辺貞夫。次回のセッションでは、静かなジャズを流すことを検討する』」

そんなことまで書いていたとは、すっかり忘れていた。

「紗良さん、記録が少し……詳細すぎるかもしれないとは思います。でも、幸男さんのトラウマは深刻なんです。あらゆる誘因を把握する必要が……」

紗良さんの表情はさらに険しくなった。彼女はファイルを閉じ、身を乗り出した。

「映奈、これが何を意味するか、あなたにもわかっているはずよ」その声は静かだったが、一言一言がハンマーのように私の心を打ちつけた。「こういうケースは何度も見てきた。セラピストが、特に若い女性が、弱い立場にある男性患者に不適切な感情を抱いてしまうこと」

「そんなことは――」

「したでしょ」紗良さんは私の言葉を遮った。「この二年、小野寺幸男はいつもあなたのその日最後の患者で、あなたは何度も自主的にセッション時間を延長していた。私が気づいていないとでも思った?」

反論しようと口を開いたが、何も言えなかった。彼女の言うことはすべて事実だったからだ。

「もっと重要なのは」と紗良さんは続けた。「あなたが専門家としての立場と、彼の弱い状態を利用しているということ。これは職業倫理に違反するだけでなく、彼を傷つける行為よ」

「彼を傷つけるつもりなんて、ありませんでした」私の声は震え始めた。

「意図は関係ないわ、映奈。結果が全てよ」紗良さんは立ち上がった。

彼女はドアまで歩くと、私を振り返った。「今回の記録は見なかったことにしてあげる。でも、これ以上境界線を越えるようなことがあれば、上に報告せざるを得ないわ」

ドアが閉まった後、私は椅子に崩れ落ちた。

それから二時間、仕事に集中しようとしたが、まったく手につかなかった。廊下を通り過ぎる足音がするたびに、私は神経質に顔を上げた。電話が鳴るたびに、管理層からの呼び出しかと肝を冷やした。

午後三時、無理やり普通の治療記録を書き直していると、オフィスのドアの外から聞き慣れた声がした。

「水野映奈先生はいらっしゃいますか?」

幸男の声だった。

予約も、連絡もなく――彼はただ、私のオフィスのドアの前に現れたのだ。

私は急いでドアに歩み寄り、小さな窓から廊下に立つ幸男の姿を確認した。見慣れた黒いジャケットを着て、髪は少し乱れ、その表情は……戸惑いと、ある種の頑なさが混じり合っていた。

私はドアを開けた。

「幸男さん、どうしたんですか?」私はプロとしての口調を保とうとした。

彼はこちらを見ると、一瞬、その目が輝いたが、すぐに複雑な色を帯びた。「映奈さん、昨日のこと……」

「幸男さん、昨日は何もありませんでした。そして、私はもうあなたの主治医ではありません」私は彼の言葉を遮った。自分の声が、予想以上に冷たく、硬質に響いた。

廊下には他の人たちもいた。何人かの同僚が私たちを見ている。その視線は、まるで舞台の上から浴びせられる照明のように感じられた。

幸男は凍りついた。彼は私を見つめた。

周囲の人間は、本格的にこちらに注意を向け始めた。紗良さんが自分のオフィスから顔を出し、眉をひそめているのが見えた。

「わかりました」幸男は何の感情も込めずに、静かにそう言った。

私は戸口に立ったまま、彼が去っていくのを見ていた。心臓が張り裂けそうなほどに痛んだ。

エレベーターのドアが閉まった瞬間、背後で紗良さんが言うのが聞こえた。

「あなたは正しいことをしたわ」

でも、どうして正しいことをするのが、こんなにも自分の心を引き裂くように感じるのだろう?

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