第2章
群れの者たちは巨大な三日月形の輪をつくり、悲嘆に満ちた遠吠えが寄せては返すように響き渡っていた。
大長老が最前列に立ち、倒れた者たちのために『樹への還り』の儀礼を唱え上げている。
私は隊列の最前に膝をつき、胸に両手を強く押し当てたまま、嗚咽し続けた。全身が激しく震えるほどに。
前世で皮を剥がれ、血を抜かれたあの幻の痛みが、今なお骨に焼き付いている。顔色は灰のようで、傍目には魂をすっかり抜かれた、ただの傷心の未亡人にしか見えないだろう。
そのとき、群れの後方で大きなどよめきが起きた。
カエルが前へと進み出て、腕の中にセラフィナを抱え込むように庇っている。彼は長老の詠唱を冷ややかに遮った。
「長老、セラフィナは妊娠していることが分かった。身重の母親が血や骨火の臭いに近づくべきじゃないし、跪かせてもいけない。子に障る」
セラフィナは弱ったふりをして、見事なまでに平らなお腹を撫でた。
骨がないみたいに、体重をカエルの肩へ預けてくる。
私は充血した目を伏せ、泥棒猫とそのくそ野郎の吐き気のする見せつけを見ていないふりをした。
だが、こちらが厄介事を避けても、セラフィナはわざわざ私の目の前へ持ち込んでくる。
「ルナ」彼女は偽りの同情を浮かべ、私を見下ろして言った。「もう番を失ったのだから、思い出の品なんて抱え込んでいても、悲しみが深まるだけよ。私が預かってあげたほうがいいわ」
むき出しの欲が、その目に走った。視線の先は、私の胸元で揺れる月長石のペンダントだ。
「たとえばこの月長石。あなたには不釣り合いだわ。アルファの庇護を失って、もう独り身でしょう? 一族の遺産を象徴する遺物を、今のあなた守りきれるはずがないもの。私に渡せば、もっと価値ある使い方ができるわ」
爪が掌に食い込み、血が滲みそうになる。
その首飾りは、母が死ぬ前に遺してくれた最後の品だ。ルナの血統と一族の名誉、その絶対の証。
汚らわしい伽相手が、よくもそんな口を開けたものだ。
カエルはすぐ隣に立っている。止めるどころか、平然と口を挟んだ。
「セラフィナの言うとおりだ。俺はカエルの血を分けた兄弟だ。これからは俺が、あいつの代わりにお前と息子の面倒を見る。兄弟がいない以上、屋敷の財産目録と個人用保管庫の印章は俺に差し出せ。俺が管理してやる。お前が気を揉む必要はないからな」
前世でも、こいつはまさに同じ耳障りのいい言葉で、私からすべてを剥ぎ取った。骨の髄まで。
私は数秒、黙ったままでいた。それから震える手でポケットに指を入れ、ずしりと重い狼頭の印章を取り出す――金庫室を開けられる、唯一の鍵。
カエルの目が輝いた。反射的に手を伸ばして、それを受け取ろうとする。
私は跳ね起きた。群れの全員の目の前で、印章を轟く火口へ叩きつけるように投げ込んだ!
印章は硬い石縁にぶつかって、瞬く間に粉々に砕け散った。破片が弾け、燃え盛る骨火の中へ吸い込まれていく。
伸ばしたままのカエルの手が空中で固まった。顔色が恐ろしいほど暗く沈む。「渡したくないなら、そう言えばいいだろう! なにがしたいんだ、これは!?」
声は掠れていたが、言葉は刃のように鋭い。「カエルは死んだ。死人の品を持っていても意味はない。彼と一緒に埋めてやる」
カエルに爆発する隙も与えず、私は踵を返して長老と、呆然とする群れへ向き直った。
「長老。この群れのルナとして宣言します。カエル個人のアルファ財産は、当面戦死者の未亡人扶助基金と群れ共有武器庫へ分割し、本日より長老会が全権をもって管理してください!」
その言葉が落ちた瞬間、広場は大きなどよめきに包まれた。
同族の歴史の中で、葬儀の儀礼のさなかにルナが自ら権限を手放し、富を差し出した例など一度もない。
カエルの目が血走る。身の毛もよだつほどの激昂を無理やり押し殺しながら、「正気か!? 壊す必要なんてなかっただろ! 何を企んでる!?」と噛みついた。
私は即座に、か弱い被害者の仮面へ戻る。
涙を頬に流し、今にも崩れ落ちそうな苦痛の表情を作った。
「番がいなくなりました。彼の遺したものを抱えていたら、私は毎晩、血の涙を流してしまう。彼の財を群れに返すことは、カエルが生前いちばん大切にしていた務めです。あなたは自分の兄弟の最期の願いに唾を吐くつもりですか……?」
反論される前に、私はふいに視線を上げ、まっすぐ彼を見据えた。声音は軽いのに、刃先みたいに鋭い。
「でも、あなたはどうかしら? 兄弟の骨もまだ冷えきっていないのに、儀礼のことは一つも尋ねず骨火へ現れた。最初に口にしたのは、金庫の印章と月長石の要求……」
「いったい、誰のために要求したのかしら?」
言い終えた瞬間、空気が変わった。群れが彼に向ける視線が、露骨に冷たく濁っていく。
カエルは逃げ場を失い、羞恥で顔を引きつらせた。歯ぎしりしながら、みじめな言い訳を絞り出す。「俺は……この群れのためを思って……」
私は冷たく鼻で笑い、背を向けて完全に無視した。
骨火の儀は、息苦しいほど気まずい空気のまま、重く張りついた夜の中で幕を閉じた。
私は息子の手を引き、屋敷へ戻る。
群れから十分に離れたころ、ずっと黙り込んでいた息子が、私の上着の裾をそっと引いた。
小さな顔はくしゃりと歪み、大きな目には戸惑いが渦巻いている。声を落として囁いた。
「お母さん……あの人、お父さんとまったく同じ匂いがするのに。どうしてみんな、叔父さんって呼ぶの?」
