第3章
胸が痛いほど締めつけられる。
自分の慰み者を公然と我が物にするためだけに、カエルは目の前に立つ己の血肉を切り捨て、死者の皮を被る道を選んだ。すべては、あの女を自分のものにするために。
「いい子にして、ね。あれはお父さんじゃない。お父さんはもう、ずっと前にいなくなったの」私はしゃがみ込み、髪を撫でながら、喉の奥から無理やり言葉を絞り出す。
息子を落ち着かせると、進路を変え、まっすぐ長老議事堂へ向かった。
「樹への帰還」取り消しの書面を、長い卓の上に叩きつける。
「カエルのアルファ登録を無効化してください」大長老の目を真っすぐ射抜き、言い放つ。「アルファ権限と私財も封印してください。長老会が全権を掌握します」
大長老は固まった。杖が床をどん、と打つ音が響く。「それでは権力の空白が生じる。少なくともひと月の猶予が――」
私は両手を卓の縁に突き、身を乗り出して視線を絡め取る。「掟には、堕ちたアルファの登録は七日以内に抹消せよ、とあります。さもなくば残留する気配が神木の根を穢す。群れ全体の加護を剥ぎたいのですか? 捺してください。今すぐ」
神木を腐らせた責任など、誰も背負えない。歯を食いしばった大長老は印を引き抜き、羊皮紙に叩きつけた。
「それから」私は、引っ込めようとする手を塞いで続ける。「子を連れて王都へ行きます。聖樹の分かれ根で弔いをする。通行許可証を発行して」
許可証を懐にしまい、屋敷へ戻る。
そこで目に入ったのは、隅でうずくまる息子だった。小さな手が、生贄用の粗い棘石を必死に握りしめ、床板にがりがりと擦りつけている。
柔らかな肉球は裂け、鮮血が木目に滲んでいた。痛みに全身を震わせながらも、泣き声を漏らさぬよう唇を噛みしめている。
すぐ近くでは、セラフィナがベルベットのソファに寝そべり、温めたミルクを気ままに啜っていた。
「アルファの後ろ盾がなくなったんだから、あんたたち二人はルールを覚えなさい」彼女は嘲る。「役立たずのゴミは、新しいルナに早く仕えるやり方を身につけな。あとで殴られたくないでしょ」
頭の奥が怒りでぶんぶんと鳴った。私は一歩で部屋を横切り、息子の手から血に濡れた石をひったくると、振り向きざまに全力で投げつけた。
「きゃっ!」セラフィナが悲鳴を上げ、身を引く。「あんた正気!?」
私は息子の血まみれの手をきつく包む。「もう一度この子に触れたら、素手で喉を噛み千切ってやる」
立ち上がり、見下ろす。「私たちはもうすぐ出ていく。汚らしい遊びは自分だけでやって」
セラフィナは頬にかすった石の欠片を払って、冷たく鼻で笑う。「出ていけると思ってるの?」
「私は妊娠してるの。昼も夜も世話が必要。あなたは未亡人でしょう。死んだ番のために徳を積みたいなら、私に仕えるくらい当然じゃない」
エリアスの皮を被ったカエルが、こちらへ歩み寄ってくる。
吐き気のするほど辛抱強く、高潔そうな顔を作って言った。「セラフィナにはお前が必要だ。それに、兄弟の最期の願いは、お前と子を守れというものだった。外ははぐれ者だらけだ。お前はここにいなければならない」
その顔を見つめた瞬間、脳裏をよぎったのは、あの早すぎる破水の記憶だった。
私は自分の血の海に横たわり、痛みで意識が飛びそうになっていたのに、彼はセラフィナのそばを離れたくなくて、階下に降りてくることすら拒んだ。
指先まで氷みたいに冷たくなっていく。私は肩で強く彼を押しのける。「セラフィナはあなたの番よ。自分で世話して」
夜更け、息子を宥めて眠らせてから自室へ戻ると、薄い壁越しに、カエルとセラフィナの押し殺した言い争いが聞こえた。
「いつになったら権力を握るの? うちの子がベータで生まれるなんて嫌! 私はルナになりたいの!」
「エリアスの身分を使って長老会を空にしたら、俺たちの子は正当にアルファの座を継ぐ」
「エララに、あんたが死んでないってバレたら?」
カエルが暗く喉を鳴らして笑う。「エリアスの死体は灰になるまで焼いた。証拠は残ってない。仮に気づかれても、母親は全部知ってるし、俺につく。エララが口を開いた瞬間、母親が『悲しみで気が狂った』ことにして、地下牢に放り込むだけだ」
セラフィナの腹の子はカエルの子。私は何も知らされず、この瞬間まで徹底的に騙され、愚か者にされていたのだ。
吐き気を飲み込み、息子のことを思い出して自分を奮い立たせる。この子のために、私たちは必ず、こんな地獄からすぐに抜け出す。
夜明けの光が差しはじめた頃、評議会の使者が門の鉄環を叩いた。通行許可証が有効になったのだ。
私は貴重品を一つも持たない。スーツケースは一つだけ。必要最低限の服を詰めた、それだけ。
玄関ポーチを降りた瞬間、カエルの巨体が道を塞いだ。
射抜くような視線がスーツケースに食いつく。「どこへ行く」
「どいて、エリアス。身の程をわきまえて」
その名が、彼の擦り切れた神経を踏みつけた。カエルは飛びかかるように前へ出て、私のスーツケースを乱暴にもぎ取った。
「どこにも行かせない!」
「あなたに私を支配する権利はない!」私は睨みつける。「あなたは義理の兄弟であって、私の番じゃない!」
カエルの瞳に金色の憤怒が灯る。圧倒的で押し潰されそうなアルファの威圧が、肩にのしかかった。
距離を詰められ、熱い息が顔にかかる。「なぜ出ていく? ここにいれば、子は飢えない」
その目が、焦りと欲に濁っていく。「兄弟は死んだ。お前は男が欲しいんだろう? セラフィナは純血の後継ぎを産む。お前たちは……二人とも俺に仕えればいい。まだ家族のままだ」
喉元に強烈な吐き気が込み上げた。
全身の力を振り絞り、私は彼の頬を容赦なく叩いた。
「最低。反吐が出る」
その一撃で、カエルの理性の最後の糸がぷつりと切れた。
獣じみた唸り声を漏らし、激昂した獣のように飛びかかってくる。腕を掴まれ、乱暴に胸へ引き寄せられた。
「行かせない!」
その瞬間、外で突如として大きな騒ぎが起こり、重い扉が押し開けられた。
そこに立つ人物を見て、カエルは凍りついたように硬直した――
