第2章
オフィスの中。
ソファーに座った二人の子供が山本教授と何やら口論をしていた。
陽が怒った様子で言い放った。「全部このおじいさんのせいだよ!毎日ママに実験させるから、ぼくたちはママに会えないじゃないか!」
「おいおい、困ったちゃんだなぁ。そこは触っちゃだめだよ!」健太が古い花瓶を持って床に落としそうになっているのを見て、慌てて声を上げた。
江口美咲は中の物音を聞きつけ、ドアを開けてその光景を目にして、苦笑いを浮かべた。
「健太、早く花瓶を下ろして!」
「ママ!」二人の子供たちは声を聞くと、一斉に江口美咲の方へ駆け寄ってきた。
健太は花瓶を抱えたまま走り、左足が右足に引っかかって、瞬時に床へ倒れ込んでしまった。
「あっ!私の花瓶!」加藤さんは心配そうに花瓶を受け止めようと走り寄った。
なんとか受け止められ、胸をなでおろした。「危なかった!」
「加藤さん、本当に申し訳ありません!ご迷惑をおかけして!」江口美咲もヒヤリとした。あの花瓶を壊していたら、いくら弁償することになったか分からない。
加藤景弘は生還したような表情を浮かべ、「私今まで誰も恐れたことはないが、この二人の子供だけは本当に手に負えない」
彼は横にいる二人の元凶を見つめた。
二人の子供たちは先ほどまでの勢いはどこへやら、急に大人しくなり、一人は江口美咲にお水を注ぎ、もう一人は足をマッサージし始めた。
「ママ、疲れてない?足マッサージしてあげる!」
「ママ、お水持ってきたよ!」
二人の子供たちは江口美咲の前で走り回りながら世話を焼き、先ほどまでの横柄な態度は影も形もなく、加藤景弘は血を吐きそうなほど腹を立てた。
「ママを見たとたん別人みたいになって...あぁ、私のパソコン!」加藤教授は真っ暗になった画面を見て、頭が大きくなりそうだった。
二人の子供たちは江口美咲が研究室にいる時間が長すぎるのを心配して、ママの体を案じ、加藤さんのオフィスで悪さをして、パソコンの画面も真っ暗にしてしまったのだ。
江口美咲が口を開いた。「陽、早く加藤さんのパソコンを直して。いたずらはだめよ!」
陽は素直に頷いた。「はい、ママ!」
彼は加藤さんのパソコンの前に行き、ちょっと触っただけで、すぐに画面が元に戻った。
「君たち二人の小悪魔め、ママにしか言うことを聞かないんだから!」加藤景弘は二人のいたずら者を見ながら言った。
陽は加藤景弘に向かって舌を出した。「ぼくたちはママの子供だもん、ママの言うことは聞くに決まってるでしょ」
その言葉を聞いて、加藤景弘は気を失いそうになった。江口美咲の方を見て、何か言いたそうな様子だった。
江口美咲はその意図を察し、傍らの二人の子供たちに言った。「陽と健太、ちょっと外で遊んでいて。加藤さんとお話があるの。後で呼びに行くから」
「はーい!」二人の子供たちは声を揃えて答え、外へ走り出て行った。
これで部屋の中には加藤景弘と江口美咲の二人だけになった。
加藤景弘は江口美咲に向かって言った。「美咲、私は今、国内に研究所を設立したんだ。君に帰って見てもらいたい。手元の仕事を片付けてから戻るつもりだが、その間君に頼むことになる」
江口美咲はその言葉を聞いて躊躇した。「教授、私には無理だと思います!」
「大丈夫だ、君を信じている。君が何を気にしているのかわかっているよ。でもあれから何年も経っている。いつまでも過去に囚われていてはいけない」加藤景弘は江口美咲を真剣な表情で説得した。
江口美咲の過去については、彼もある程度知っていた。江口美咲が帰国を躊躇っているのは、高橋隆司が国内にいるからだった。
「教授、私は...」江口美咲が何か言いかけたが、加藤景弘に遮られた。
「もう何も言わなくていい。私にはわかっている」
......
K市国際空港。
江口美咲は二人の子供を連れて飛行機を降り、見慣れた光景を目にして、六年前の出来事が次々と脳裏に浮かんできた。
あの時はこんなにも決然と去ったのに、まさかまたここに戻ってくることになるとは思ってもみなかった。
加藤さんに用事を頼まれなければ、江口美咲は決して戻ってこなかっただろう。
「美咲、君が戻りたくないのはわかっている。でも今の君の能力なら、君にしか頼めないんだ!」
出発前の加藤さんの言葉が今でも耳に残っている。「時は流れ、もうあれから何年も経った。君ももう昔の小娘じゃない。きっと物事に向き合い、対処する力も備わっているはずだ」
彼女の頭の中には思わず高橋隆司のことが浮かんだ。これだけの年月が経って、あの人はきっとあの高嶺の花と結婚して、子供も大きくなっているだろう。
以前心配していたことは、自分で自分を縛っていただけなのかもしれない。そう思うと、江口美咲の心は少し軽くなった。
「ここがママが昔住んでいた場所なんだ。すごくきれいだね!」健太は思わず感嘆の声を上げた。
海外の景色にはない美しさで、彼女も帰国してこのような景色を見るのは初めてで、新鮮に感じた。
一方、陽は落ち着きなく、日本に帰れば自分のお父さんに会えると考えていた。お父さんは国内にいるのだから!
母と子供を捨てた男がどんな人間なのか、しっかり見てやろう。そしてきちんと懲らしめてやるんだ!
























































































