第87章

江口美咲は我に返り、彼女に視線を一瞬だけ走らせてから、傍らに座っている石川悠斗の方へ目を向けた。

石川悠斗はこの二人の間の雰囲気が少しおかしいことを敏感に察知し、さりげなく立ち上がって江口美咲の前に歩み寄り、藤原花子の視線を遮った。

「江口先生、おじいさんはもう上で待っています。今、上がりましょうか?」

江口美咲は頷いた。

石川悠斗はソファに座っている藤原花子に一声挨拶をし、江口美咲を連れて階段へ向かった。

二人が階段口に着いたところで、藤原花子の声がゆったりと響いた。「江口さんの治療のおかげで、石川おじいさんの体調がずいぶん良くなったと聞いています。私も上がって見舞いたいですし、...

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