第3章
先輩は私につられて笑った。「笑うとすごく綺麗だね。もっと笑った方がいいよ」
私は驚いて自分の顔に触れた。「私……私、笑ってた?」
笑うという感覚がどんなものか、もうほとんど忘れてしまっていた。父の「教育」のもとで、私の表情筋はこわばり、痛みと服従しか表現できなくなってしまったかのようだった。
「もちろん」先輩はスケッチブックを閉じた。「それに、綺麗な笑顔だったよ」
頬が微かに赤らんだ。「技術的に優れている」とか「才能がある」といった言葉ではなく、「綺麗」と褒められたのは、これが初めてだった。
「先輩」私は静かに尋ねた。「絵を描くのって、本当に楽しいものだと思う?」
「もちろんさ!」先輩はためらいなく答えた。その目はキラキラと輝いている。「絵を描くのはゲームみたいなものだよ。楽しくなくちゃ。見てよ、僕が描いたこのちっちゃなモンスターたち。これを描いてるとき、すごく楽しかったんだ」
彼はスケッチブックの面白いキャラクターたちを指差した。「絵を描くって、心の中にあるものを紙に表すことだと思うんだ。好きなものを何でも描ける――それって、なんて自由なんだろう!」
自由。
その言葉は、私にはあまりにも縁遠いものだった。
「もし……誰かが君の絵をけなしてばかりで、殴ったりまでしたら?」私はおそるおそる尋ねた。
先輩は目を丸くした。「そんなの、ひどすぎるよ!絵って、人のために描くんじゃなくて、自分が楽しいから描くものだと思うんだ」
彼は真剣な顔で私を見た。「桜井さん、あのね。君は絵がすごくうまくて、すごいと思う。でも、僕みたいに、もっと楽しく絵を描けるようになってほしいんだ」
この人の言葉は、とてもシンプルなのに、すごく温かかった。
「桜井さん」先輩は真剣な眼差しで私を見つめた。「よかったら、毎日放課後ここで会わない?僕が楽しい絵の描き方を教えるから、君は僕に綺麗な絵の描き方を教えてよ。どうかな?」
私は屋上を見回した――ここは安全だ。誰も父に告げ口したりしない。
私は力強く頷いた。私の目に、初めて未来への期待が宿った。
「じゃあ、決まりだね!」先輩は子供のように笑って、小指を差し出した。「指切りげんまん!絶対だからね!」
私も微笑んで小指を差し出し、彼の指に絡めた。このささやかな仕草が、私の人生で初めての、本当の約束になった。
初めて誰かが友達になりたいと思ってくれた。初めて誰かが私の気持ちを気にかけてくれた。初めて誰かが、絵は楽しくていいんだと教えてくれた。
「あっ、やばい!」先輩は腕時計を見て、突然飛び上がった。「もう四時半だ!急いで帰らないと、母さんが心配する」
彼は慌てて画板を片付け、私の方を向いた。「君も早く帰りなよ。家族に心配かけないようにね。また明日!」
先輩が慌ただしく去っていく背中を見送りながら、私ははっとした――四時半!
恐怖が瞬く間に私を呑み込んだ。
父からは、毎日四時四十分までに帰宅するよう命じられていた。残された時間は、たったの十分!学校から家までは歩いて十五分はかかる――絶対に間に合わない!
先輩は、私の十四年間の暗闇に差し込んだ一筋の光のようだった。
でも今、その光のせいで、私はとてつもない代償を払わされることになるかもしれない。
私は必死に家まで走った。心臓が激しく脈打ち、激しい動きに手首の傷がずきずきと疼いた。道中、ずっと時間を確認し続けた。四時三十五分……四時三十八分……四時四十分……。
遅刻だ。
玄関の扉を開けると、時計の針はきっかり四時四十一分を指していた。
父はリビングの中央に立っていた。手を後ろに組み、その顔は恐ろしいほどに昏かった。
「四時四十一分だ」その声は氷のように冷たかった。「説明しろ」
「ごめんなさい、お父さん、私……」
「ごめんなさい?」父の声は怒りを帯びた。「絵梨、時間厳守が何を意味するか分かっているのか?自分を律することだ!完璧を目指すことだ!お前はこんな最も基本的な要求すら満たせないくせに、芸術で何かを成し遂げようなどと夢見ているのか?」
私は頭を垂れ、乱れた呼吸を必死に落ち着かせようとした。「私のせいです」
父がゆっくりとこちらへ歩いてくる。父から放たれる怒りのオーラを肌で感じた。
「顔を上げろ」
震えながら顔を上げると、父の鋭い視線がメスのように私の顔を切り刻んだ。
「今日の貴様はどこか違うな」その声は猜疑心に満ちていた。「目が赤いし、それに……その顔つきは何だ?」
しまった。気づかれた。
いつもの無表情に戻ろうとしたが、父の視線はあまりにも鋭すぎた。
「お前、笑ったな」それは疑問形ではなく、断定だった。
「いいえ、お父さん」
「嘘をつくな!」父は突然私の顎を掴んだ。息もできないほどの力だった。「十四年間育ててきたんだ。お前の表情の一つ一つまで分かっている!今日、お前は笑った。それも一度や二度ではない!」
顎に激痛が走る。だがそれ以上に私を恐怖させたのは、父の目に宿る怒りの炎だった。
「絵梨、何度警告した?幸福は完璧の敵だ!幸福を感じ始めた時、人は弛緩し始める!弛緩し始めた時、人は堕落し始めるのだ!」
父は私の頭を激しく揺さぶった。「分かっていないとでも思うか?学校で誰かに会ったな?誰かとお喋りでもしたか?」
心臓が止まりそうになった。先輩の存在を知られてはいけない――絶対に!
「誰もいません、お父さん。本当に、誰も」
「馬鹿を言え!」父は私の顎を離し、代わりに手首を掴んだ。
私は恐怖に顔を歪めた。傷のことを知られてしまう。
「これは何だ?」父は包帯に気づいた。
「私……うっかり切ってしまって」冷静を装おうとした。
父は包帯を引き剥がした。その下の傷を見て、父の表情はさらに恐ろしいものへと変わった。
「自分の身体を傷つけるだと?」その声は恐ろしく低く響いた。「お前の身体が、お前のものだとでも思っているのか?お前の全ては、私の育成計画に属しているのだ!たった一つの傷跡でさえ、お前の完璧さに影響を及ぼしかねんのだぞ!」
「ごめんなさい……」
「明日から」父の声は冷え切っていた。「訓練時間を二時間延長する。放課後は、緊急時を除き、寄り道せずまっすぐ帰ってこい。一分たりとも外でうろつくことは許さん。規律とは何か、もう一度叩き込んでやる必要がある!」
いや!
それじゃあ、もう先輩に会えない。私たちの約束も、秘密の隠れ家も、見つけたばかりの希望の光も……。
「はい、お父さん」私は声が従順に聞こえるように努めた。
「今すぐアトリエに行け。今夜は零時まで練習だ。今日の教訓を、お前の体にしっかりと刻みつけてやる」
父はアトリエの方へ向き直った。私は絶望を胸に、その後ろをついていった。
だが、鏡の前を通り過ぎた時、自分の目が見えた。
恐怖に満ちてはいるものの、そこには別の何かが――先輩が言っていた光があった。弱々しくではあるが、まだ瞬いている。
アトリエでは、父の叱責と絵筆を叩きつける音が響き渡った。しかし私の心の奥底では、明日の屋上を、先輩の笑顔を、あの面白いちっちゃなモンスターたちを、待ち望み始めていた。
