第5章

 控室の姿見に映る、正装に身を包んだ濱野和久。非の打ち所がない完璧な姿だというのに、肌寒さだけが彼を苛んでいた。

 今朝目にした古見優希の表情が、脳裏に焼き付いて離れない。あまりにも平穏で、まるで赤の他人を見るような、そんな静けさだった。

 ――堕胎させるつもりなど毛頭なかった。あれは俺の骨肉だ、本当に殺させるわけがないだろう?

 医者にはすでに手を回してある。「容態の変化により手術は延期」と告げさせ、そのまま入院措置をとる手はずだ。今日の式さえ終われば、彼女の大好物であるオニオングラタンスープを持って病室へ行き、機嫌をとればいい。それですべて丸く収まる。

 そう考え、和久はスマホを...

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